サーヴァント・サマー・フェスティバルI−16
5周目が終わり、6周目にループは入った。
さすがに5周目ともなるとかなりのクオリティの同人誌ができたが、「ビルドアッパーマルタ」というステゴロ系の体育会漫画は、やはりニッチな受け方をしてしまい売り上げを大きく伸ばすことにはならなかった。だがどんどん売り上げは伸びており、質も上がっている。
刑部姫のコピー本は、今回は「とあるケルト兵の下克上」というディルムッドと唯斗の話で、なんと従順なディルムッドが唯斗に強気で迫るという筋書きだった。刑部姫曰く「セッの導入本なの」とのことだった。ベッドに押し倒されたシーンで終わっていたため、ぼかした言葉はお察しである。
アーサーはさすがにムッとしていたが、すぐにループとなったため、気を取り直していつもの初日をこなす。
そうして始まった6周目では、初日からギルガメッシュへの挨拶を先に済ませて、後半の日程はすべて同人誌作成に詰め込もうということになった。次は万人受けする王道ラブコメにすると決めてあるためだ。
なお、ギルガメッシュはルルハワでは「ゴージャスP」と自称している。なぜか記憶をなくしているためだ。周りは当然、正体に気づいているが、ギルガメッシュは自分で記憶を取り戻したいとのことで頑なにネタバレを拒否している。
記憶をなくしているものの、同人誌の印刷会社やホテル、不動産など多角経営をしているセレブでもあった。
入稿がどうしてもギリギリになってしまうため、事前の挨拶を毎回行っているが、今回は唯斗も参加することにした。ゴージャスPと名乗るギルガメッシュが見てみたいからだ。
夕方頃、ワイキキストリートにやって来た一同は、通りを歩くギルガメッシュを難なく見つける。
「ゴージャスP!ちょっとよろしいでしょうか!」
「うむ、なんだ」
マシュが声をかければ、鷹揚にギルガメッシュはこちらを向いた。
ネイビーのシャツを腕まくりして太い腕を晒し、大きく開いた胸元には金細工のネックレス。白いチノパンは太陽の光を受けてオレンジ色になっており、上等な靴は砂で汚れてすらいなかった。
「初参加なので、事前のご挨拶に」
「ご苦労。して、初参加で1週間前から制作開始とは、できるのか?」
「はい、参加は初めてですが同人誌の制作経験はありますので!」
「うん?まぁいいが…それよりそこな茶髪の、貴様、我のマスターだな?」
ギルガメッシュは適当に頷いてから、おもむろに唯斗に視線を向けた。こちらを睥睨する紅の瞳は、確かに記憶がないのか、唯斗を初めて見る目だった。
少しそれに寂しくなってしまった唯斗は、思わず目を逸らす。
「…なるほど。斯様な小童が我のマスターとは、と思ったものだが…他ならぬこの霊基が貴様を欲している。ハッ、まさかこの我が何者かを欲するなど」
ギルガメッシュはそう笑うと、大股でこちらに詰め寄った。後ずさろうとした唯斗だったが、その前に抱き寄せられ顎をくいっと持ち上げられる。
「っ、」
「おっと名を呼ぶなよ、無粋だ。それにしても、ふむ、顔は上等か。どのような関係を築いていたかは覚えておらぬが、どれ、体を試せば思い出すか?貴様もプレジデンシャルルームに興味はあろう?」
「ギル…P王、マスターの感情を愚弄するような真似をするな。あとマスターは私のものだ」
アーサーは鋭い声を出して牽制する。他のサーヴァントより語気が強いのは、唯斗とギルガメッシュがこれまで築いてきた思い出や関係性、唯斗の思いなどを守ろうとしてくれているからだ。
ギルガメッシュはそんなアーサーに「青いな」とでも言いたげに片眉を上げる。
「P王はやめんか、いかがわしい伏せ字のようであろうが。フン、お手付きか。まぁ良い。貴様らの無礼、特に許す。案ずるな、マスターとやら。この特異点が然るべき結末を迎えれば我もすべて思い出すであろう。必ずな。この霊基はそれだけの強い感情を貴様に抱いている」
記憶をなくしているからか、ギルガメッシュの表情はいつもより柔らかい。それに、唯斗の寂寥感にも応じてくれた。
思わず、唯斗は距離が近いのをいいことに、ギルガメッシュの肩にそっと額を置いた。今彼は王としてここに立っていないため、無許可でもこれくらいは許されるのでは、と思ってのことだ。
「ん、分かった。でも結構しんどいから早く思い出してくれ」
「なんだ、やはり我のモノだったのではないか貴様」
「違うと言っているだろう。マスター、取って食われてしまうから離れて」
ギルガメッシュの手が唯斗の腰から尻を撫でようとしたところで、アーサーが唯斗を引っぺがす。ギルガメッシュは呆れたようにため息をついたが、そこに、その息を吐く音とは別の荒い呼吸音が聞こえてきた。
「え、ちょ、マジ?騎士王とマスター君って…しかもあのギ…Pもそういう…あ〜関係性オタクに優しい世界の音ォ〜」
「な、なんだこやつは」
「ちょっとそういう…病というか…持病の発作だ」
やはり来たか、と唯斗ももう慣れたように答えた。
そしていつも通り、刑部姫はコピー本としてギルガメッシュと唯斗の話を描くことを高らかに宣言した。BLはそこまで好きというわけではない、と言っていたわりに、毎回毎回ご丁寧に目覚めるのはなんなのだろう。