サーヴァント・サマー・フェスティバルI−17
「あれ、先輩のお帰りが遅いですね」
「確かにな」
原稿制作が進むある夜、息抜きに外に出ると言って立香が部屋を出てからかなり時間が経過した。途中、ジャンヌ・オルタも呼び出されたと言って外に出てから、なんだかやつれて帰ってきている。
ジャンヌ・オルタは疲労からそのまま寝てしまい、寝室にいる。リビングルームでは、残った唯斗とアーサー、マシュでトーンなどの単純作業を行っていた。牛若丸とロビンはすでに自室で休んでいる。
「ちょっと探してくる。アーサーも行こう」
「了解したよ」
「お願いします」
前回のループで海賊に囲まれたこともあったため、一応、唯斗は警戒してアーサーとともに探しに行くことにした。マシュはいまだに非戦闘員であるため、二人で向かう。
もうそれなりに夜は遅い時間だが、いったいどこまで行ったのだろう、と考えながら部屋を出てエレベーターホールに着き、エレベーターに乗って1階まで降りると、扉が開いたちょうどその目の前に立香がいた。
隣にはジャンヌがおり、しかも立香はジャンヌと手を繋いでいる。
「……マジか立香」
「あー…すまないね藤丸君、このことは誰にも言わないよ」
「待って違う!ジャンヌはお姉ちゃんだから!そういうんじゃないから!」
「あっ、そういう
癖なんだな、うん、それも自由だ」
「いや違う、あれ、お姉ちゃん…だっけ、あれ?俺は今何を…」
マシュというものがいながら、とショックを受けた唯斗だったが、立て続けにとんでもないプレイ内容を聞いてしまい、さすがにドン引きを隠せない。
隣のアーサーも気まずそうにしていた。
とりあえず二人はエレベーターを出たが、一方、立香は混乱したように疑問符を浮かべまくっている。
すかさず、ジャンヌが立香に微笑む。
「何言ってるんですか、私はお姉ちゃんです。私オルタ、私オルタ・サンタ・リリィの3人の姉を持つ大事な弟ですよ」
「いや何言ってんだあんた」
唯斗はようやく事態を理解した。冷静に考えれば、あの立香がこんな不埒なことをするわけがないし、この聖女もそうだ。
どうやらジャンヌは、立香を弟だと洗脳しようとしている。立香は「あれ?姉ちゃん?」とふわふわし始めていた。
「しっかりしろ立香!」
「あら、嫌ですね。あなたも弟ですよ」
「いや血ぃ繋がってねぇから!」
「フランスの血が流れているのならもうそれは実質弟です」
「その理屈だとフランス国民6000万人全員が弟ってことになるが!?」
「大家族ですね!」
「コスモポリタニズムって次元じゃねぇ…!」
救国の聖女のこんな姿を見たくなかった。
ルルハワで浮かれているからこうなっているのか、霊基の変質を問わずこういう本性なのか。いや、ルーラーの彼女はもっと堅苦しい性格をしている、やはりアーチャークラス特有の性質だろう。そう信じたい。
呆気にとられていたアーサーは、唯斗を背に隠した。アーサーの広い背中でジャンヌが見えなくなる。
「すまないレディ、マスターまで洗脳しようとするのはやめていただきたい」
「そうですか、あの騎士王の義姉になれるかと思ったのですが…仕方ないですね。さぁマスター、部屋に戻りましょう」
「あれ…俺は……いったい……」
「すまない藤丸君、君までは僕では…!」
「なに諦めてんだ」
唯斗は立香もなんとかしようとしたが、さっさとジャンヌは立香とエレベーターに乗って上階に行ってしまった。エレベーターホールには唯斗とアーサーだけが残される。
「…姉を名乗る不審な女がうろいついている、って通報した方が良かったか」
「フランス最大の英霊がそんな事案で捕まるのは僕は嫌なんだけれど……」
「俺の方が嫌だわ!」
翌朝、立香はジャンヌに膝枕されている状態で発見され、しばらくマシュはツンとしていた。洗脳が解けた立香、さらには同じく洗脳されていたジャンヌ・オルタも目が覚めて、まるで酒の場でやらかしたかのような空気が流れていたのだった。