サーヴァント・サマー・フェスティバルI−18


6周目のループは、これまでで最も部数が捌けた回となった。
「僕たちは召喚ができない!」という王道ラブコメで、立香をモデルにした少年が女性たちと絆を踏まえていく筋書きである。
ジャンヌ・オルタは唯斗とどちらにするか迷ったが、「あんたでラブコメ書くと血を見そうだからやめとくわ」と言って立香をモデルにしていた。

一方、刑部姫は「カルデア捕囚」というコピー本を出し、ギルガメッシュが宝物庫に唯斗を監禁するというとんでもない内容のものを出していた。
ギルガメッシュはそれを買いに来ていたが、刑部姫は見せると記憶を思い出すことになってしまうと伝えたため、ギルガメッシュは買わなかったらしい。その代わり、大まかな流れだけ説明させられ、監禁するという設定に「その手があったか」と呟いていたという。

それを刑部姫に震える声で報告された唯斗は、それ以降、アーサーから片時も離れなかった。何ならあの王はアガルタで未遂を起こしている。

あれやこれやとあったが、結局メイヴには及ばず、ループは7周目に入った。

そろそろまったく違う設定のものを書いてみよう、ということで、ホテルに着くなり新機軸のネーム作成が始まった。
いつもの流れをこなしてから、ジャンヌ・オルタがネーム作成に悩んでいる間、これは長丁場になりそうだということで、先に飲み物を買ってくることになる。

立香とマシュ、唯斗、アーサー、そして刑部姫も一緒になって、ホテルのプールに併設されたバーに向かうと、そこにはアーラシュがビールを飲んでおり、バーテンダーのモリアーティと談笑していた。


「あれ、アーラシュ?」

「お、マスターじゃねぇか!セイバーも藤丸も揃って…って、おや、また見ない顔だな」

「うわ陽キャ眩しい」


太陽を見るように、眩しさから遠ざかろうとする刑部姫。不思議そうにするアーラシュに、唯斗から紹介することにした。


「この人は姫路城の人ではない方の主、刑部姫。伝説のあやかしだな。んで、この弓兵はアーラシュ、ペルシアの大英雄だ」

「姫知ってる、東方の大英雄でしょ。噂通りの爽やかさ…近所の文系お兄さんって感じ」

「?よく分からんが、マスターたちの国のお姫様か。良かったなマスター、日本の英霊ともっと話したいって言ってたもんな」

「え、唯斗君そうだったの?」


からりと笑うアーラシュの言葉に、刑部姫はキョトンとする。唯斗は頬をかきながら頷いた。


「うん、まぁ。でも俺も、いわゆるコミュ障ってやつ?だから。用事もないのに話しかけるってまだハードル高くて。あんまり言うと引かせるかもって思って言わなかったけど、あなたとも、こうして話せて嬉しいんだ、本当は」


これは本心だ。思っていたよりもずっとやばい人だったが、それでも、天下の名城・姫路城における妖怪の主であり、日本で最も美しい城の主なのだ。今もなお、その伝説は語り継がれ、いまだに姫路城は刑部姫のものだとされているほど。
だから話せたことに唯斗は嬉しいと思っていたのだが、初めて会ったときはそれを伝えられる様子ではなく、そして3周目以降は唯斗自身慣れてしまったためタイミングを逃していた。
もちろん、刑部姫からすれば初めて会ったばかりだ。


「へへ、それはシンプルに嬉しいかも。姫も後世の日本の子に会えて嬉しいよ。同人誌頑張ろ」

「あぁ、ありがとう」


刑部姫はこれでコミュニケーション能力は彼女が思っているほど低くない。唯斗にもこうして気にしないような返し方をしてくれた。
アーラシュはニコニコとしてそれを見守ったあと、同人誌を書く、という言葉に遅れて気づく。


「てかマスターたちも本出すのか、サバフェスってやつに。あと1週間くらいだよな?」

「そう。だからちょっとハードスケジュールだな」

「そうか、そいつは大変だな」


途端に心配そうにしたアーラシュは、モリアーティに声をかけ、ジュースを人数分出してくれた。どうやら奢ってくれるらしい。


「え、そんないいのに」


オレンジジュースを受け取りつつ、気を遣わせてしまったか、と思っていると、アーラシュは苦笑して唯斗の目元をそっと撫でる。


「気にすんなって。それより体気をつけろよ、カルデアとは気候が全然ちげぇしな。お前さんだけの体じゃねェんだから」

「えっ、それどういう…」

「…アーチャー、誤解を招く言い方はよせ。恋人としてセクハラは見逃せない」

「こい…ッ!!」


どうやらアーサーはあえて直裁な言い方をすることで、刑部姫のコピー本をコントロールしようとしているらしい。前回のギルガメッシュに監禁される話をきっかけに、自分相手のものを書かせようとしているのかもしれない。
しかし刑部姫も、そんなことでコントロールされるような並みのオタクではなかった。


「これは典型的なメインルートの相手と幼馴染みルートの相手のそれじゃん…!姫、こういうの幼馴染みルートの方が好きなタイプなんだよね…よし、決めた!」


あとはお察しである。


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