サーヴァント・サマー・フェスティバルI−19


7周目は新しいジャンルにチャレンジするという言葉通り、完成した同人誌「ままのみみ」はいわゆるケモノ系ファンタジーであり、ストーリーは童話っぽい可愛らしいものとなった。
イラストも可愛い系ではあるのだが、一部のコア層(ケモナーというらしい)からの熱い支持も受けていた。

ただ、やはり受け方がニッチ過ぎたようで、売り上げはあまり伸びなかった印象だ。

そして刑部姫であるが、「解凍」という短いタイトルでコピー本を出し、アーラシュが唯斗を甘やかそうとし、人に頼ることができない唯斗が絆されてついにアーラシュを受け入れて頼る、という場面を描く内容になっていた。
本当に言いそうな言葉ばかりで、思わず「実際にあった気がしてきた」と思ったほどだ。

アーサーはまたもぶすっとしていた。どうやらアーラシュとの話を描かれるのが余計に嫌だったようだ。過去の因縁、というような間柄ではないはずだが、近しいからこそなのかもしれない。

言うまでもなく8周目となり、もはや作業のように初日のタスクをこなしたところで、ジャンヌ・オルタは部屋でネームを前に唯斗に声をかけた。


「ちょっと唯斗」

「なんだ?」

「今回はあんたがストーリー考えなさい。異世界転生ネタで」

「えっ」


なんと、ジャンヌ・オルタからジャンルまで指定された上でストーリーを考えろと言われてしまった。
どうやら異世界ネタを書く踏ん切りが前回の同人誌でついたようで、今回は転生モノにするとのことだ。

物語を考えるなど経験がなく、断ろうとしたが、ジャンヌ・オルタは有無を言わさなかった。ろくな手伝いもできていない唯斗だ、これくらいはしておかないとという気にもなる。

そこで、ストーリーを考えるべく一人でホテルを出て、通り沿いにヤシの木の下に並んでいるベンチに座った。
ヤシの背の高い影であっても、今は正午という時間もあって真下のベンチに影が差す。

広い海を眺めながらいろいろと考えていたときだった。


「マスターじゃねぇか」

「え、アキレウス?」


ヤシの影とは違う影が下りて、ベンチから振り返ると、すぐ後ろにアキレウスが立っていた。アキレウスはサンソンと同じく普通の衣服を着ており、オレンジのアロハシャツがやたら似合っている。


「そのシャツいいな、似合ってる」

「おう、サンキュー!マスターも水着似合ってるぜ。あとエロい」

「それはお前がそういう目で見てるだけだろ」

「お、その通りだぜ。マスターも慣れてきたな」


ニヤッとしたアキレウスの言う通り、この手の会話にもようやく慣れてきた。少し前であればこれだけで動揺していたが、やっと普通に返せるようになった。

アキレウスは「よっ」と声を発してから、軽くジャンプしてベンチにどかりと着地して座る。そのまま唯斗の肩に腕をまわして抱き寄せた。


「それで?こんなところで一人で何してんだ?ナンパ待ちなら俺でどうだ」

「ちげーわ。ちょっと考え事。サバフェスに出るジャンヌ・オルタの手伝いしてんだけど、ストーリー考えろって言われて」

「へぇ。そいつぁまた意外な組み合わせだな」

「立香とかアーサーも一緒だけどな。もとはこの島で観測されたフォーリナー反応の調査で来てたんだ。そのままいろいろあって、サバフェスに出るってことになった」


思えば、もともとはそんな理由でハワイに来たんだった、とやっと思い返したところだ。作業のようにXXと戦っていたから忘れていた。


「にしてもストーリーねぇ。考えは進んだか?」

「全然。異世界転生モノで考えろとは言われてんだけど…」

「ふーん」


この手の話は詳しくないのだろう、アキレウスはよくわかっていなさそうに返した。この自由さ、さすがギリシア人である。
と思ったところで、アキレウスはふと口を開いた。


「マスターが、今の知識持ってトロイアに来て軍師とかやってたら、俺ら負けてたかも。そう考えたら、あんたが実際の歴史のいろんな場面に転生?とかしたら、歴史変わるよなぁ」

「………、天才か?」

「お?まぁそれほどでもあるかもだけどよ、閃いたか?」

「うん」


なんと、アキレウスから普通に参考になる話を聞いてしまった。確かに、それなら唯斗でもストーリーが書ける。
早速戻ろうか、と思ったところに、今度は別の、そしていつもの声がかけられた。


「おや、唯斗さんにイリアスの大英雄じゃねぇですか。どうしたんです?」

「長考中?わかる、姫もそうやって考えてること多いわ」


ロビンと刑部姫だ。どうやら買い出しに出てきたようだ。


「アキレウスと話してたらストーリー思いついた」

「おお、そりゃお手柄じゃねぇかアキレウスの旦那」

「マジか、じゃあ礼にデートしようぜマスター」


唯斗もホテルに戻ろうと立ち上がったところで、アキレウスも同じく立ち上がり、唯斗の肩に再び手をまわす。今度は、彼氏が彼女にするような肩の抱き方だ。


「デ、ートって、それこそ引く手あまただろ…」

「俺ァあんたがいいんだって」

「こらこら、騎士王がいるんだからよしなさい」


見かねてロビンが助け舟を出したが、それによって例のヤツが始まった。


「なるほどね、まるっとお見通しだ!」

「うわ、始まった」


ロビンも理解したようで、情緒が狂った刑部姫から距離をとる。


「まじめな交際をする騎士王、横やりを入れるギリシアの伊達男…それも俊足のアキレウスでしょ?真実はいつも一つなんだよなぁ」

「こいつやばくね?」


アキレウスはまったくオブラートに包まずに引いたように言った。いつもなら刑部姫もダメージを食らうところだが、聞こえていないのか聞いていないのか、完全に黙殺した。


「じゃ、姫ちょっと急用できたからホテル戻るね!買い出しは緑茶さんお願い!」

「緑茶言うな…って行っちまったよ」


揺れるヤシの木の音が通りに響く中、普段からは考えられないスピードで刑部姫は走り去り、後には微妙な顔をした男3人だけが残された。


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