悪性隔絶魔境新宿I−3
そうしてしばらく話していた唯斗たちだったが、突然、食堂にけたたましい警報音が響いた。
カルデア中に響き渡る警報音に、その場にいた全員に緊張が走る。
『立香君、唯斗君、マシュ、緊急事態だ!すぐ管制室へ来てくれ!』
「ちょっと行ってくる。アーサー、」
「行こうマスター」
すぐにアーサーも応じてくれて、唯斗はアーサーとともにすぐ立ち上がる。ギルガメッシュとマーリンに見送られて走り出すと、立香とマシュとほぼ同じタイミングで管制室に到着した。
所長席の前に立つダ・ヴィンチと、誰も座っていない空席の所長席。スタッフたちはすでに解析に入っている。
「ダ・ヴィンチちゃん!これって…」
「特異点の再発生だ!」
立香が早速尋ねると、ダ・ヴィンチはいつも通りにこやかにしつつ、そう答えた。
特異点の発生。時間神殿の攻略による人理焼却の破却によって、これまでの特異点探索で生じていた小規模な特異点を含め、時代の揺らぎはすべて修復されたはずだった。
特に第五特異点、第六特異点で生じた大規模な揺らぎは、ゲーティアとの戦いまでの間に問題となるものだけを修復し、そうではないものについては時間神殿攻略による自動修復に任せていた。
それに残滓でもあったのか、と思っていると、ダ・ヴィンチはやれやれと手を上げる。
「たとえこれまで解決できていなかった揺らぎがあったとしても、この特異点の人理定礎への影響は30%を超えている、これは7つの特異点に匹敵するレベルだ。そして困ったことに、魔術協会の肝いりとかいう連中はまだここに到着してもいない!」
「じゃあ…」
「その通り、ここはもう、君たちに修復してもらうしかない。国連と協会には、すでに魔神柱事件の後処理として話を通している。渋い顔をされたけどね。つまり、もう一度軽い気持ちで世界を救ってくれ、という訳さ!」
「そんな、また先輩が戦わなければならないのですか!」
軽く言うダ・ヴィンチにマシュが息を飲む。あのゲーティアとの死闘から三日しか経っていないのにまた特異点探索に行くのかと案ずる気持ちも、分からなくはなかった。
なぜならマシュは、無事にカルデアに帰還できたまでは良かったのだが、デミ・サーヴァントとしての権能はほとんど失い、立香とレイシフトできないからだ。
魔術回路は残っているが、それを起動することができなくなっており、もはやマシュは戦える立場ではないのである。
フォウ、ことビーストIVキャスパリーグの力によってその命を長らえ普通の人間と同じ寿命となったマシュだったが、サーヴァントとしてはもう戦えない。本来ならそれで良かったところ、こうしてまた特異点に向かうことになってしまった。
「大丈夫だマシュ、俺とアーサーもいる。ちょっと予想外だけど、立香だってビーストIIに短刀で、ビーストIに拳で挑んだクソ脳筋野郎だし」
「ちょっとそれ悪口?褒めてないよね?」
「ははは、その通りだよマシュ。立香君は特異点探索ではプロ中のプロさ。そしてこの特異点にも、これまでの7つの特異点に負けず劣らずの異常性が見受けられる。むしろ初心者の魔術師が行くのは極めて危険だ」
「でも…だからこそ先輩が行ってはいけないのでは、とも思うんです」
「じゃあ俺とアーサーだけで行くか?」
「それは駄目だよ、唯斗」
そこで唯斗がそう言えば、マシュより前に立香が答える。誰もが、立香がそう答えると分かっていた。
「礼装の準備してくる。唯斗も行こう。大丈夫、マシュ、絶対戻ってくるから!」
「そうだな。カルデアからのフォロー頼むぞ、マシュ。アーサーはいったん待っててくれ」
「了解」
アーサーとマシュを残して、立香と唯斗は管制室を出て廊下を走り始める。
廊下に出てすぐ、立香は唯斗の少し前を走りながら振り返って微笑んだ。
「唯斗も、最初の頃と違って気が遣えるようになったよね」
「優しくなったのは確かだな」
「違うよ、最初から優しかったんだよ、唯斗は。それを表に出せるようになっただけ。大事なことは全部、最初から唯斗の中にあったって、ちゃんと知ってるでしょ?」
「……そうだな。立香のそういうとこは変わらないな」
グランドオーダーは終わった。そして今、新たな特異点の探索が始まろうとしている。
変わったこともあれば変わらないこともある。いずれにせよ、今、唯斗も立香も、さほどの恐怖も心配もなかった。もちろん緊張感は持っているが、長い旅で成長した二人であれば、乗り越えられるだろう。