サーヴァント・サマー・フェスティバルII−1


ループ9周目、日数にして57日目を迎えた。第五特異点や第六特異点に匹敵する期間を過ごしていることになる。

今回は唯斗に続いて立香がストーリーを考えることが決まっているため、初日のもろもろを済ませたあとは立香が一人バルコニーでタブレットと向かい合っていた。

前回の売り上げはそれなりに良く、やはりラブコメと同じように人気のジャンルであったために数が伸ばせたようだった。
タイトルは「ゼロから始める啓蒙専制生活」で、唯斗がストーリーを担当したものだ。史学科の学生が中世ヨーロッパ風の異世界に転生して王になってしまい、啓蒙主義のような近代化政策を行って弱小国家を立て直していくという話である。

どうしても恋愛要素が恥ずかしくて入れられず、本当に上からの近代化と中央集権化を推し進める内容になってしまったため売り上げを危惧していたが、18世紀以前の王様勢からは後世の政治が、以降の王様勢からは懐かしさが感じられるということで、為政者サーヴァントを中心に好評だった。
立香とマシュも「普通に勉強になる」と楽しんでくれていた。

一方、刑部姫のコピー本はというと、やはりアキレウスと唯斗の話であり、「逃がさない」というタイトルだった。嫌な予感がした唯斗だったが、内容は思ったほど暗くなく、両想いなのが互いに分かっているのに踏ん切りがつかず逃げ回る唯斗をアキレウスが追いかけて捕まえ落ち着くところに落ち着くという話だ。
てっきりギルガメッシュのときの設定が再来するかと冷や冷やしたが、これもこれで少しホラーだ。

さて、立香が考え始めて1時間ほどしたあたりでジャンヌ・オルタとの話し合いに入ったため、気分転換になるようにと、唯斗とマシュ、刑部姫で甘いものを買ってくることにした。
近くのパーラーに向かい、その店先に佇むオジマンディアスを発見したあたりで、唯斗は今回はオジマンディアスか、と先立って理解する。


「む、唯斗か。貴様も来ておったか。まぁ特異点なれば当然であろうな」

「俺はあなたまで来てるってのがわりと驚きだけどな。離れたプライベートビーチならまだしも、こんな人の多いところに来てるとは」


パーラーに着くと、オジマンディアスの方から声をかけてきた。マシュも元気よく挨拶をして、「うむ」とオジマンディアスは鷹揚に返す。


「ちょ、ちょ、もう一人のマスター君、ひょっとしてこの人って、あの古代エジプトの…」

「そ、ラムセス2世ことオジマンディアス。刑部姫と同じように、シミュレーターのエジプトストレージで神殿を再現して引きこもってるんだ」

「ヒン、姫こういう太陽属性直視できない…」

「ほう、余の太陽が如き輝きに眩んだか。良い、仕方のないことだ」


唯斗も刑部姫もそこそこ失礼な言い回しをしたが、やはりギルガメッシュよりオジマンディアスのほうがそういうところは器がでかいというか、寛容だ。

それにしても、と唯斗は改めてオジマンディアスの姿を見やる。
黒いシャツに白いスラックス、金のベルトに金のバングルという姿で、どうやらこれは霊衣のようだ。オジマンディアスなら自分で自分の霊基くらい弄れるだろう。


「ふ、見惚れたか?唯斗よ」

「うん、正直めっちゃ格好いい」

「当然だろうよ」


ドヤ顔のオジマンディアスに小さく笑ってから、刑部姫の精神衛生のためにも早くジェラートを買ってしまおうとパーラーのテイクアウト用窓口のメニュー表を見上げる。


「うわ、チョコも食べたいけどピスタチオもいいな…」

「両方買えばよかろう」

「そんな食えないって」

「ふむ」


迷っていると、オジマンディアスはなんでもないように窓口に立ち、チョコとピスタチオを注文した。すぐにカップに入れられて出てきたもののうち、チョコを手渡される。


「喜ぶがいい、余が手ずから与えてやろう」

「え、マジで?」

「なに、観光地だ。下賜のひとつもしてやらねばな」


そう言って、オジマンディアスはスプーンに掬ったジェラートを差し出してきた。このまま食べろということだろう。唯斗は気にせず、そのまま差し出されたスプーンを口に入れた。
爽やかなピスタチオの甘味が広がり、すぐに美味しい部類のものだと分かった。

そしてオジマンディアスは、当然のようにこちらに顔を寄せる。


「貴様も疾く寄越さぬか。今更間接キスなどと気にするわけでもあるまい」

「あ、はい」


唯斗もすぐに、チョコのジェラートを掬ってオジマンディアスの口元に運んだ。ぱくりと形の良い唇がチョコのジェラートを含み、飲み込む。


「…お前が以前献上したもののほうが美味であった」

「そ、うか。素材がよかったからかな」


バレンタインのときのものを引き合いに出され、唯斗が作った方が美味しいといわれてしまえばさすがに照れる。だがオジマンディアスは、まったく痛くないデコピンをしてきた。


「いて、」

「馬鹿者。想いの有無であろうが」

「っ、うん」


さらにもっと気恥ずかしくなることを言われてしまえば、オジマンディアスは笑って唯斗の頭を混ぜ返した。
一方、一連のやり取りを見ていた刑部姫は、ついに地面にしゃがみ込む。マシュは慌てて同じくしゃがんだ。


「刑部姫さん!?」

「ごめ…あまりに甘くて…糖分過多で死にそう…姫アイスいいや…代わりにコピー本でダイエットするから……」

「コピー本でダイエットとは…?」


マシュがまじめに考え込むが、思った通りの展開に唯斗も気にするのをやめた。もはやオジマンディアスは関心がないようで、「甘くてかなわん。このピスタチオの方で良かったといえるな」と言ってマイペースに自分のホテルへと戻っていった。


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