サーヴァント・サマー・フェスティバルII−2


いよいよこのループの10周目に到達した。2ヶ月はフランスのバカンスより長い。
美しい空やビーチへのありがたみも失せているが、それぞれの同人誌制作のスキルもすっかり向上し、できるようになったことが増えたのは純粋に楽しいものだった。もちろん、締め切り前は地獄を見ているが。

先の9周目においては、「ジャイアントバベッジ」というロボットモノの同人誌を発行。凝りすぎて内容的にはほぼ未完と言って差し支えないが、男性陣を中心に受けは良かった。
ロボット系が大好きな立香らしい内容である。

そして刑部姫のコピー本だが、「ファラオの恋人モード」という内容を一言で表したタイトルのものができあがっていた。まさにタイトル通り、オジマンディアスが恋人としての顔を唯斗に見せてくれる話だ。もちろん、オジマンディアスの1番がネフェルタリであることは考慮されていない。
唯斗としてはそこは解釈違いと言えば解釈違いだが、思えば一夫多妻制であった以上、オジマンディアスとて1番はネフェルタリでも2番以降を作らないというわけでもないため、これもアリなのか、とも思う。

そうして10回目の初日、毎度毎度、体はフライト明けの気だるさが残っているため、それも10回ともなると辟易としてくる。
ホテルにて、今回のストーリー原案担当となっているマシュがあれこれ悩んでいる間に、唯斗はアーサーの誘いでビーチに出ることにした。体にはフライトの疲労、頭には2ヶ月分の精神的疲労が蓄積されている様子を見て、ビーチに立つパラソルの下、ベンチでゆっくりしているといい、という計らいである。


「何か飲み物を取ってこよう。マスターはここで休んでいて」

「あぁ、ありがとな」


パラソルの影の下、一人掛けの木組みのビーチチェアに寝そべると、カラッとした暑さの中に海風が心地よく、波の音が響く中で一息つけた。
もうビーチに感動はなくなっていたが、思えばこういう形でゆっくりしたこともなかった。

寝てしまうのはさすがにアーサーに申し訳ないと、起きてぼんやり海を眺めていた唯斗だったが、そこに見知らぬ声がかけられた。


「ねぇ君、ちょっといいかい?」

「…?」


顔を上げると、そこには二人組の男がいた。水着姿で、サングラスを外してこちらを見つめている。


「…、何か用か」

「今一人?」

「良かったら、一緒に泳がねぇ?あ、疲れてるんだったら、俺らが泊まってるロッジのテラスで休むとかでもいいぜ」


なぜか、友達にするかのような提案を見知らぬ男たちにされてしまった。初対面の見ず知らずの人間と遊んで楽しいのだろうか。


「…?それ、俺と一緒で楽しいのか?もっと他に楽しそうなヤツいると思うけど」

「うっわマジか、君天然なの?」

「かわいいじゃん!大丈夫大丈夫、一緒に楽しいことしようぜ」


素直に指摘すると、なぜかテンションを上げてはしゃぎ始める。これはルルハワの慣習な何かなのだろうか、とさらに疑問を深めていると、今度は聞き慣れた声が落ちる。


「失礼。この方に何か」


屈強な体格、なぜか肩から落ちない白いタオル、輝く金髪にそれ以上に輝く精悍な顔。唯斗を男たちから隠すように割り込んだのはガウェインだった。
圧倒的に男として上位存在の登場に、男たちは一瞬ポカンとしてから顔をしかめる。


「あ?んだよ」

「ゴリラはお呼びじゃねぇんだよ」


なおも食い下がる男たちだったが、ガウェインは冷たく見下ろす。


「私の連れに下卑た目を向けるなど、ゴリラの方がよっぽど知的でしょう。痛い思いをしたくなければ早く立ち去りなさい」

「チッ…騎士でも気取ってんのかよ……行こうぜ」

「後ろの君、ゴリラに嫌気さしたら声かけてよ」


二人はガウェインを睨み付けてから、そう言って去って行った。それを冷徹なまなざしで見送ってから、ガウェインはこちらを笑顔で振り返る。


「私の連れなどと無礼を働き申し訳ありません、マスター。あのような男どもがナンパするなど千年早いというもの、つい我慢できず」

「…え、あれナンパか?」

「なんと、お気づきでなかったのですか?」


どうやらあれはナンパだったらしい。もちろん、ナンパがどういうものかは知っているが、その知識が自分と結びつかなかった。


「いろんな趣味のやつがいるんだな」

「マスター、あなたはもっとご自身の魅力に気づくべきです」


そう言うと、ガウェインはその場に跪く。これでようやく、ビーチチェアに座る唯斗より僅かに視線が下になる。


「あなたのそのシャツを引き裂いて、細い腰を掴み組み伏せ抱き潰したいと思ってしまうのが男の性というもの」

「主語がでけぇだろ。つかお前そんなこと思ってたのか」


唯斗の返しに、ガウェインは一瞬黙る。そして、誤魔化すようにニッコリと笑った。


「私は優しくしますよ」

「そういうことじゃ…あ、アーサー」


ガウェインの後ろから歩いてくるアーサーに気づいた唯斗は、アーサーに手を振る。途端にガウェインはビクリと肩を震わせた。


「おやガウェイン卿、君も来ていたのか」

「え、ええ異世界の我が王」


ガウェインは慌てていったん立ち上がり、再びすぐにアーサーに向けて膝を着く。アーサーも慣れたように手を上げて応じてから、その手に持っていたトロピカルな見た目のジュースを唯斗に渡してくれた。


「はい、マスター」

「ありがとな。実は今、ナンパ?されてたところをガウェインに助けてもらったんだ」

「…なんと。そうだったのか、それは礼を言う、ガウェイン卿。ホテルの前だからそういう輩はいないと高を括っていたが…いや、マスターの魅力を考えれば場所を問わず警戒するべきだった。私のミスだ」

「いえ、私もマスターのサーヴァントとして当然のことです」


ガウェインは努めて平静を装っているが、チラチラとこちらを見てくる。先ほどのガウェインの言葉をアーサーに知られればどうなってしまうか、という焦りだ。少しからかってみてもいいだろうか、とウズウズし始めたときだった。


「いや、私こそマスターと共に立ち警戒しなければならなかった。こんな、リネンシャツを乱暴に破いて柳腰を引っ掴みベッドに押し倒して一日中抱き潰したくなるような人を放っておくなど……」

「これだから円卓は」


そんなアーサーの言葉に、唯斗は盛大にため息をついた。お前らの頭の中はそればかりなのか、とベディヴィエールあたりが思い切り否定しそうなことをつい考えてしまう。
ガウェインはあからさまにホッとしたようにしつつ「そのための我ら騎士なれば!」と勢いよく言っていた。

唯斗はもうそれ以上追求する気も失せて、ジュースをサイドテーブルに置いてからビーチチェアに横になる。
ガウェインもランスロットたちのところに戻ってサークル活動とやらを続けると言って別れ、アーサーは砂に腰を下ろして唯斗の頭を撫でる。

そうしてしばらくしてからホテルに戻ると、なぜか刑部姫がハスハスとしながらタブレットに向かっていた。
どうしたのか、と思っていた唯斗に、ロビンがそっと耳打ちする。


「オタクらがビーチでナンパとバカやってるところ、あの姫さんバッチリ目撃してたんですわ。それをきっかけに、例のヤツが…」

「手を替え品を替えって感じだな」


どうやらこういうパターンもあるらしい。ということは、次はガウェインが相手の話ということだ。
唯斗はどっと疲れたような気がして、何度目かも分からないため息をついた。


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