サーヴァント・サマー・フェスティバルII−7
木製のベンチに並んで座ると、街路樹のおかげで日陰になっていることもあり、歩きづめだった疲れが心地よく実感できた。なんだか悪くない疲労感だ。
定位置のように唯斗の右側に座っている天草はそんな唯斗を見て微笑んだ。
「それにしても、とても良いことを考えつきましたね、唯斗さん」
「あぁ…うん、本当はさ。最初にこういうのが立香のためになるって提案してくれたの、ロマニなんだ。天草は1日しか被ってないと思うけど」
「前の医療セクションのトップだった、所長代理ですね。今はダ・ヴィンチ女史が代理になっていますが、私もドクター・アーキマンはあの天才に引けを取らない優秀なトップだったと思います」
「うん。本当にな。あの人が、こういう時間が大切だって教えてくれた。去年の立香の誕生日も同じように、こういう時間を過ごしたけど…今ならもうちょいうまくやれるかなって思って、それで鈴鹿御前たちに声かけたんだ」
去年はまだまだ人間1年生としてのたどたどしさが残っていた唯斗だったが、今ならもう少しナチュラルにできるのではないか、そう思って、このルルハワで行動に移した。もちろん、鈴鹿御前や清少納言、天草らサーヴァントたちがそうした唯斗の意志を理解して付き合ってくれているから、というのも大いにある。
天草は唯斗の言葉を聞いて、そっと、唯斗の頭を撫でてきた。突然のことに体が固まったが、遅れて驚いた唯斗は慌てて天草に視線を向ける。
「え、ちょ、なんだ」
「いえ。本当に優しい人だなぁ、と思いまして」
どうやら天草なりに、褒めてくれているらしい。子供扱いなのか、それともただの気分なのか。声色から揶揄しているものではないとは分かるが、どう反応すればいいのか分からなくなる。
「…嫌でした?」
そんな唯斗を見て、天草はそう尋ねてきた。手は止まっているが、まだ唯斗の頭の上にのせられている。ギリギリ唯斗の方が身長が高いくらいなはずなのに、不思議とそう感じさせないのは、天草の存在感が強いからだろうか。
唯斗は存外心地よかったその感触に、視線をそらして、右膝をベンチの縁に乗せるようにして上げるとそこに顎を乗せる。その状態で顔を天草とは反対方向に向けてから、問いに答えた。
「……嫌、じゃない、から…その、続けてもらってもいいけど」
「…、ふふ、そうですか」
天草は小さく笑うと、再び唯斗の頭を撫で始めた。同時に、二人を囲うようにごく軽い迷彩が張られる。これは、道行く人々が自然とこのベンチに注目を払わなくする程度のもので、二人を探す視線を排除しないようになっている。立香たちには見つけてもらえるが、ストリートを歩く人々には見つからないということだ。
ちょうどそこに、立香がやってきた。
「あー!天草が唯斗とイチャついてる!ずるい!」
立香はそう言いながらベンチに回り込むと、唯斗の左隣に座り、唯斗をおもむろに抱き込んだ。
「うわ、」
「おやマスター。マシュのファッションチェックは済んだので?」
「俺センスないからって出禁になった。女子たちでなんかやってる」
「おいたわしや…」
「思ってないこと言うなよ!」
「バレましたか」
立香のアロハシャツの肩口で顔を上げた唯斗は、どうやらファッションセンスがなく鈴鹿たちに追い出されてしまったらしい立香を見上げる。
「それでなんでこの体勢だよ…」
「ん?だって天草が俺の唯斗に手ぇ出してるから」
「唯斗さんは騎士王のでしょう」
「俺のバディなの!弄ばないでよね!」
立香の主張を聞いた天草は、わざとらしく困ったように肩を竦めた。
「誤解です。弄ぶなんてそんな…」
そしてそう言うと、おもむろに唯斗のリネンシャツの空いたボタンから覗く腹筋から腰にかけてをするりと撫でた。弱いところを指でやわく撫でられたため、背筋をぞくぞくとしたものが軽く駆け上がる。
「ひっ、ん、!おいバカやめろ」
「ちょ、唯斗耳元で喘がないで…!変な気分になるから!」
「勃ってますよマスター」
「えッ嘘!?」
「嘘です」
「天草ァ!!」
聖職者のくせにこんな下世話なことも言うのか、なんて置いてけぼりになった唯斗はぼんやり考えた。いったいこの二人は唯斗を挟んで何を言っているんだ、と呆れていると、抱き締められたままの立香の体が、以前よりさらに逞しくなっていることに気づく。
2015年7月末から2016年12月末までの間、焼却されていた人類はもちろん、唯斗たちも体の歳は取っていない。これはカルデアスによって時空から断絶されていたことによる。精神年齢としては、立香が19歳、唯斗が18歳に相当する。
一方、人理焼却が破却されてから、この2017年よりようやく身体の経年が始まった。
つまり、体では立香が18歳、唯斗が17歳になろうとしているということだ。やはり20歳までの1歳差は大きい。
「…立香、また体分厚くなったか?」
「唯斗!?」
ぐるりと背中に手を回して抱きついてみると、やはり前の印象よりもごつくなっている。この2年近い旅を思えば、こうなるのも当然だが、それにしては唯斗の方は体格があまり成長していない。この筋肉の差はいったいなんなんだ、と釈然としない気持ちになっていると、立香は顔を真っ赤にして唯斗の肩に手を置いた。
「……弄んでるの、天草じゃなくて唯斗じゃん………」
「だから私は弄んでなどいないと言ったでしょう。どう考えても魔性なのはこっちです」
「ほんとにね…」
知らぬうちに何かに同意した天草と立香。まぁ別にいいか、と唯斗は立香から体を離し、ブティックを見遣る。ちょうど、マシュたちが出てきたところだった。
太陽も傾きつつある、そろそろ夕食をどこで取るか考えることを提案しようと、唯斗は二人を気にせず立ち上がった。