サーヴァント・サマー・フェスティバルII−8


ループ11周目ともなると、同人サークルとしての腕前はすでにかなりのものに仕上がっていた。

10周目で発行した「うちの円卓」は、日常系円卓コメディであり、ほのぼのとしたテイストになっている。マシュが作ったものらしい展開だった。
一方、刑部姫のコピー本も「共依存メランコリー」というタイトルで、ガウェインが唯斗を自身に依存させ、自分に依存する唯斗に依存するという薄暗い話になっていた。
どちらの作品にも円卓が出ているのに、書き手によってここまで変わるとは、と全員微妙な顔になったものだ。

今回はジャンヌ・オルタがトレンドの悪役令嬢モノをやるということで、久しぶりに原案から一貫してジャンヌ・オルタが指揮することになっている。

コマ割りなど基幹設計はジャンヌ・オルタと立香の仕事であるため、それがまとまるまでの間、いつも通り買い出しに出るが、今回は唯斗とアーサー、刑部姫、マシュというメンバーになった。
やはりアーサーは、なるべく自分相手のコピー本をできれば作ってもらえるよう、展開をコントロールするつもりのようだ。再びオタクの業に挑むあたり、アーサーも懲りない。


「というわけで、今回は私さ」

「帰れ」


開口一番、アーサーが冷たく言うと、ホテルのエントランスに現れた花の魔術師はため息をつく。


「この流れで来たら私の番だろう」

「え、マシュちゃんこの人って…」

「はい、ブリテンの魔術師、マーリンさんです」

「うわぁ声そっくり!キャラソン出さなさそう!」


刑部姫の謎の感想に、さすがのマーリンですらちょっと困ったようにしつつ、唯斗に向き直る。


「君も、そろそろ私の番だと思うだろう?不公平だし」

「いや別に、そもそも例の本が出ないことが一番であってな…」

「まぁまぁそう言わずに」

「ここでその軽薄な口を閉じてもいいんだぞ、マーリン」


アーサーはなおもキレ気味に言うが、今回は刑部姫も引いたようにしてマーリンを見ているため、今回はコピー本を回避できるのでは?と唯斗も思い始めた。

どうやらそれはマーリンも察したらしく、少し焦ったようにする。


「あ、あれ〜?なんか思っていた反応と違うぞぅ…ほ、ほら、私はマイロードのことが大好きで堪らないわけだけど…」

「…?」


だから?という顔の刑部姫。マーリンはいよいよ、唯斗の腰を抱き寄せた。


「あれ、えと、なんていうんだっけ、ほら、BL!そう、これはBLというやつではないかな?」

「あー…姫、そういう公式CP的な扱い好きじゃないっていうか…妄想はこっちの仕事だし…こっち側に媚びてるのはちょっとオタク敏感だからさ…」

「ええいなんて奇特な文化なんだ!」


どうやらオタクにもいろいろあるらしい。
マーリンは目に見えてシュンとした。さすがになんだか可哀想な気がしてきた唯斗は、唯斗を引き剥がそうとするアーサーを手で制した。
その上で、唯斗を抱き締めるマーリンのネイビーのシャツ越しに背中を撫でてやる。


「まぁいいじゃん別に、拘らなくても」

「やはり僕の紛い物の感情では駄目なのかな。本物じゃないと人の心には響かないということか」

「偽物だろうが再現だろうが、誰かの心を揺さぶることができなかろうが、関係ないだろ。マーリンには大事なものなら、俺にとっても大事なものだよ」

「っ、…困ったな。適当な言葉として言ったつもりだったけれど、うん、君はいつでも誠実でいてくれるのだったね。ありがとう、不意打ちだったから、ストレートに食らってしまった」


すると、マーリンはそう言って、頬をかいて困ったようにした。どうやら、紛い物なりに照れているらしい。アーサーも意外なものを見るような目で見ていた。

そしてさらに、刑部姫がおもむろにタブレットを取り出して起動した。


「なるほどね。夢魔として感情の再生産によって心の機微を模倣していたに過ぎなかった花の魔術師だったけれど誠実なマスターに相対的な価値ではなく自身にとって価値があるか否かを指摘されその上でサーヴァントとして大事に思う気持ちに比例してマーリンさんが持つ感情も本物かどうかを問わず大事だと思ってあげているという二人独自の関係性が構築されているわけですね」

「ノ、ノンブレス…すごいです刑部姫さん…!」

「となればやるべきことはただ一つ。ちょっとコピー本書くから部屋戻るわ。じゃ!」


刑部姫は呼吸を忘れたように一息に唯斗とマーリンの関係をずばり言い当てたあと、タブレットを持って部屋に戻ってしまった。
あのままならコピー本自体回避できたかもしれないのに、と、マーリンの策略か疑ってその顔を見上げると、本気で驚いたようにしていた。


「…つまり、彼女は僕とマスターのコピー本を出してくれるということかな?」

「残念ながらそういう流れになってしまった」


アーサーはため息をつくが、マーリンは珍しく、他意のない笑みを浮かべた。


「…そうか!それは良かった。ふふ、7日後が楽しみだ!邪魔をしたねマイロード、あぁ、柄にもなくワクワクしてしまうな」


そう言いながらマーリンも花を散らしてその場から消えた。あれは本当に純粋に楽しみにしている様子だった。
意外とかわいらしいところもあるのだな、と思ってしまい、唯斗は内心で絆されている自分に舌打ちをする。

楽しみにしているものがBLコピー本というのだけが残念だったが。


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