サーヴァント・サマー・フェスティバルII−11
「英霊たちが揃いも揃って同人誌を描いているトンチンカンな場所はここか!!」
「うわ声でか…」
翌日の夜、この日もXXとの交渉のために外に出ている立香たちが不在の間、唯斗のサーヴァントたちで作業に没頭していたが、そこにオジマンディアスが突如として扉を開け放って現れた。
これは鍵が壊れたかとヒヤリとしたが、手にはカードキーがあり、レセプションが通したのだと判断した。確かに、唯斗のサーヴァントが集まっているとなればオジマンディアスを通すのも納得である。
「ふはははは!まさか斯様なことになっていようとは!!まさに茶番であろうな!!」
「ファラオの兄さんじゃねぇか。手伝いか?」
「まさか!余が下々の余興に手伝いなど!」
「あ?じゃあ何しに来たんだよオメー」
すかさず長可が喧嘩を売るが、若造の不敬にはわりと寛容なファラオは気にしていなかった。
「無論、冷やかしにきただけのこと。おい唯斗、茶の一つでも出さんか」
「では僕が入れましょう、ファラオ」
オジマンディアスは一人掛けのソファーにどかりと腰掛けて茶を要求し、唯斗が応じる前にサンソンが立ち上がる。ちょうど、サンソンは手が空いていた。長可が今にも「殿様を顎で使ってんじゃねぇぞ」と言い出しそうだったというのもある。
「あぁ、花の都の処刑人、茶はもう一人分用意しろ」
「?マスターの分でしたら今し方入れたばかりですが」
「いや、これからもう一人来る故な」
「凡英霊が揃いも揃って同人誌に明け暮れている愉快な場所はここか!!」
そうオジマンディアスが言った直後、再び扉がバーンと開いて、やかましい男が入ってきた。ギルガメッシュことゴージャスPである。
「ギル…P王!」
「P王はやめよと言ったであろうたわけ」
ギルガメッシュに小突かれつつ、ここに全員が揃ってしまったと唯斗は思わず笑ってしまいそうになる。
レイシフトはそもそも人数制限が常に発生するため、全員が揃うことはまずない。こうして全員が一堂に会するのは、もしかしたら初めてかもしれなかった。
ギルガメッシュもソファーに腰掛けるなり、「おっと我の名は呼ぶなよ、記憶はなくしているがそれは己で取り戻す」と全員に言い聞かせるように言った。声を張らずとも聞こえる声量だ。
サンソンはオジマンディアスとギルガメッシュ両方に紅茶を出して、自分の席に戻る。それにしてもむさ苦しい空間だ。
大英雄たちがテーブルに向かってタブレットで作業しているところを見て一頻り笑ったあと、オジマンディアスとギルガメッシュはそれぞれ支給品の端末を弄り始めた。いったい何をしに来たのだこの古代王たちは。
そうしてところどころ会話などを挟みながら作業が進んでいたときだった。
「あ、そうだ殿様」
「ん?」
「殿様とそこの騎士王ってデキてんのか?」
「な…ッ」
唐突すぎる質問に、唯斗は危うく紅茶を噴き出しそうになった。アーサーも動きを止めている。
一瞬遅れて、ギルガメッシュとオジマンディアスの高笑いが響き渡った。
「「ふはははははははは!!!」」
「うるせ」
アキレウスは顔をしかめる。しかし、アーラシュやエミヤも肩を震わせており、まさかの質問にたじろぐ唯斗とアーサーにサンソンもおかしそうにしていた。
「よいぞ若造!この際だ、暴いてやるがよい」
「誰が若造だ!」
ギルガメッシュは笑いすぎて涙目になったものを拭いながら長可を囃すが、長可は若造呼ばわりにむっとしていた。ただ、この男が人類史最古の英雄であることも知っていたため、それ以上は突っかからなかった。いや、それよりこちらの返答が気になると言ったところか。
「あー…まぁ、そうだけど」
「ふーん。ま、関係ねぇけどな」
しかし続いた言葉は意外なもので、長可の唯斗への愛着というか執着を知っているサーヴァントたちは一斉に視線を向ける。
その視線を受けて、長可はニヤリとした。
「この際だから言ってやるけどよ、お前らアレだよな、大英雄のくせして殿様…マスターのこと奪う気とかねぇのな」
「森殿、弁えなさい。お二人はすでに固く結ばれた身、非礼です」
ガウェインはさすがに窘めたものの、長可は特にキレることもなく淡々と返す。
「だからなんだよ。人の心なんてのは移ろうモンだろ。よく知ってるよなァ?円卓の騎士さんよ」
「では君は、マスターを寝取る気でもあるということかね」
同じく見かねたエミヤも、もしかしたら唯斗の身に危険が及ぶかもしれないと警戒して長可を糾す。それに対しても、長可は感情を波立てなかった。
「寝取るかどうかなんてのは問題じゃねぇ。重要なのはマスターの気持ちだろが。マスターの感情が騎士王から動くなら、それもそれで別に悪いことじゃねぇだろ。返り忠でもねェしな」
静かに語る長可はまさに、大名経験者としての風体だった。いつもの血気盛んな鬼武者ではなく、人を語る、人の上に立つ者の顔をしている。
「最も肝要なるは殿様の気持ちと己の気持ちであって、二人がいいんなら何事も良し、ならば騎士王から奪う結果も悪じゃねぇ。英霊ともあろう者が積極的にいかねぇなんて、腑抜けもいいとこだ。ちげェか?」
「長可、」
本気の口げんかは別の場所にして欲しい、と正直思ってしまったが、部屋に落ちた沈黙は怒りなどではなかった。サーヴァントたちは皆、長可の言葉に、ハッとさせられている。