サーヴァント・サマー・フェスティバルII−12


「…俺は過去、主君の妻を娶ってしまった。それは俺の死因の遠因だ。だが、サーヴァントとしての今の生、言うなれば主君に愛を抱いたのだから、さしあたって問題はない。そも、俺が異世界の騎士王に気を遣う必要など皆無か」


まず最初に言葉を発したのはディルムッドだった。いったい何を言い出すのかと思えば、これはアーサーへの宣戦布告のようなものだ。さらにアーラシュも続く。


「ま、森だっけか?あんたの言うことも尤もだな。セイバーと一緒にいることがマスターにとって一番幸福だ、なんて思っていたが…英霊ともあろう者が、自分が幸せにしてやろう、と思わないってのも、だせぇ話ではあるなァ」

「俺ァもともと寝取る気まんまんだけどな。ギリシアは恋多き文明だからな」


アーラシュの言葉に続けて、アキレウスは元からそうだなんてことをのたまった。確かにアキレウスはずっとそういう態度だった。


「私はそもそも、生を共に出来ない亡霊が生者と恋すること自体、どうかと思うがね。もちろん当人たち次第だが。しかしまぁ、他の者たちより俺の方が、ということであれば吝かではないな」

「それはもう実質、サーヴァントでも生者と恋していいと言っているのと同じでは…僕はマスターを尊重します。フランスは権利の国、マスターの選択の自由を僕は最大限尊重しましょう。ただし、僕を選んでもらえるよう努力は惜しみません」


ストレートな言い方をしないエミヤに呆れつつ、サンソンもはっきりと述べた。唯斗に選択肢があることを明らかにしつつ、諦めるつもりはないと。
いきなりこんな話になるとは思わなかった唯斗は、さすがに慌てた。今まで見て見ぬフリをしていた危ない均衡が、急速に崩れようとしているようだった。


「マイロードは罪なマスターだねぇ。とか言いつつ、先のコピー本のようにアヴァロンに招くことも視野に入れている私なのであった」

「魔術師マーリンまで…!皆の者、王にあまりに無礼です!何よりマスターを困らせてどうするのです、マスターの優しさを踏みにじる言動でしょう」


この流れには、ガウェインも立ち上がって全員を牽制した。アーサーのこともあるだろうが、一番は後者の唯斗の心を案じての言葉だろう。
それには、オジマンディアスが立ち上がって答えた。


「太陽の騎士、貴様の主張も分かるが、一方でそこな若造の言葉も真実であろう。唯斗が選ぶことであり、そして我らにも求める権利がある。たとえ我ら死者なれど、今をこうして『生きて』いるのだから」

「っ、」


ガウェインは息を飲む。生きている、という状態の定義にもよるが、確かに彼らは今この瞬間を生きている。ならば、唯斗に選ぶ権利があるように、サーヴァントたちにも選ばれる権利があると言っている。


「ファラオの中のファラオたる神王を比べ選ぼうなど言語道断!しかし余も貞操を守り通そうとする器でもなし、求められれば応じてやろう。次は本物の子を宿すか?唯斗」

「な、に言って…」


先日のバレンタインのときを引き合いに出している。こんなところで何を言っているんだと焦るが、それより先にギルガメッシュも立ち上がった。


「今の我は記憶をなくした敏腕経営者。貴様らの関係も、マスターたる唯斗との過去も何一つ覚えてはいないが、『我のもの』であるという認識はあるようだ。であれば、選ぶも選ばれるもなく、すでに我のものだ」


オジマンディアスもギルガメッシュも、飽きたのか帰ることにしたようだ。部屋の出口に向かいながら、オジマンディアスはアーサーを振り返る。


「聖剣使い。貴様は確かにマスターにとって特別であろう。だが移ろうのも生者の特権だ。それを蔑ろにするは死者のすべきことではないぞ」


その言葉を最後に、ギルガメッシュに続いてオジマンディアスも部屋を出て行った。残されたサーヴァントたちと唯斗の間には沈黙が落ちる。そして、ずっと黙っていたアーサーは急に立ち上がった。


「…いいだろう。受けて立つ」

「アーサー!?」


てっきり怒るかと思ったが、アーサーは怒りなどおくびにも出さず、毅然と全員にそう告げた。ここにはもういない古代王たちは、聞かずともアーサーの心情は理解していることだろう。


「正々堂々、君たちの挑戦を受けて立とうじゃないか。たとえその結果マスターの心が私から離れても、それを理由にマスターや相手を傷つけることはしない。ただ、君たちが全力で来るというのなら、私も加減はしていられない。悪いが、唯斗の心はこのまま私がもらっていく」

「な、異世界の我が王、しかし…」

「ガウェイン卿、君もだ。私に気遣って自身の感情を押し殺す必要はない。遠慮なく唯斗に迫るといい」

「っ、よいのですか、それで。お二人のこれまでの歩みは…」


アーサーは視線をサーヴァントたちから唯斗に向ける。唯斗が不安げにしていたのを理解して、アーサーは微笑んで唯斗の頬をそっと撫でた。


「…たとえ唯斗の心が僕からなくなろうとも。僕と唯斗が心を通わせた事実はなくならない」

「っ、アーサー、」

「…すまない君たち、これ以上はマスターを傷つける。いったんこの話はやめだ。アタックするにしても、ほとぼりが冷めてから個別にしてくれ」


アーサーはそう言うと、唯斗の手を引いて部屋の扉へと向かう。


「大丈夫、ただの気分転換さ。行こうマスター」


ざわつく心を静めるために、唯斗は深呼吸をしてから、頷いてアーサーとともに部屋を後にする。
静かなホテルの廊下のせいで余計に、耳元で鳴り響く心臓の音がうるさい気がした。


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