サーヴァント・サマー・フェスティバルII−14


結局、その後落ち着いてから作業に戻った唯斗だったが、手伝いのサーヴァントたちは特に変わったこともなく、いつも通りの時間となった。アーサーが言ったとおり、彼らも唯斗が動揺したことで、まずは唯斗の心の平穏を優先してくれているのだろう。

そうしてその日が終わり、サーヴァントたちには帰ってもらったところで、立香たちも帰ってきた。無事、メイヴのコンテストでメイヴをビーチバレーによって打ち負かすことに成功したようで、あとはこちらの同人誌をしっかり完成させれば勝利も見えてくる。

さらにその翌日の夜のことだった。
今度はXXを本格的になんとかするべく、XXが本拠地としているキラウエア火山の火口地帯へ突撃することになり、「イロモノにはイロモノ」という理論で、信長を引き連れて行った。
戦闘が予想されることから唯斗とアーサーも同行したが、立香たちは坂田金時のバイクなどで移動したのに対して、唯斗はアーサーに抱えられて移動している。

そして戦闘と信長の弁舌の末、XXは銀河警察(民間)からカルデアに転職することになり、あっという間に立香たちに寝返った。
これで、XXの襲撃は収まるし、巌窟王の言葉ではBBに対して切り札となる。

さて、こうしてXXの問題も解決したわけだが、キラウエアからホテルへの帰路は往路と同じ方法となることになった。
すなわち、立香たちはバイクで、唯斗とアーサーは徒歩ということだ。

しかし、このキラウエアからの夜空の眺めは素晴らしく、満天の星空を見上げながら歩くも良さそうだと考えた唯斗は、ある程度火口から離れてからはアーサーと並んで歩くことを選んだ。

現在、信長含む他のサーヴァントたち、そして立香たちは先に進んでいるため、真っ暗で人の気配のない火山道を二人きりで歩いているところだ。


「あまり上を見ていると転んでしまうよ」

「アーサーがなんとかしてくれるだろ」

「それはその通りだけれど…」


圧巻の星空は、過去の特異点でも何度も見てきたはずだが、太平洋のど真ん中ともなるとスケールも大きい。

アーサーに注意を促されるが、たとえ転んでもアーサーが助けてくれるだろう。


「紀元前27世紀のメソポタミアも、1世紀のイタリアも、18世紀のアメリカも、13世紀のパレスチナも、21世紀のハワイも。同じ星を見てきたんだな」

「…そうだね。変わらない美しさで、人類に寄り添ってきたんだろう」


世界中で、そして神代から現代まで、様々な星空を見てきた。この旅の中で、いつも星空の美しさに息を飲んできた。
空に輝く無数の星天井。暗闇の恐怖が紛れるような、そんな美しさであり、地上で何が起きようと何も変わらない冷酷さもあるような感じがした。


「…マスター、結局、あのあとサーヴァントたちから何かアクションはあったかい?」

「…、なかったよ。やっぱ、俺が落ち着けるようにすることを一番に考えてくれてるっぽい」


静かな山道を歩く中で、アーサーがぽつりとそんなことを聞いてきたため、唯斗は驚きつつ素直に答えた。この話題をアーサーから振ってくるとは思わなかったのだ。また唯斗を動揺させるかもしれない、と考えるタイプだからだ。


「そうか…」

「どうかした?」


どういう意図での質問なのかと、唯斗は星空から左隣を歩くアーサーを見上げる。アーサーは唯斗の視線を感じてこちらを見下ろすと、少しだけ困ったように微笑んだ。


「…あのあと、僕もいろいろと考えてね。刑部姫のコピー本を思い出して気づいたんだ。君の幸福は、本来、ただ一つじゃない。君のサーヴァントたちは誰しも、君を幸せにできるだけの英霊だ。それならば、君には本来、他にも選択肢があった」

「……アーサー、」


刑部姫の本そのものはきっかけでしかないのだろう。アーサーは単に、唯斗を幸せにできるのは自分だけではないのだと思ったようだ。


「僕は君から選択肢を奪っていたんじゃないかって。アルトリアは、この世界のブリテンにおいて、自分が王でなければ滅びなかったのではないか、と今でも思うことがあると言っていたし、それはかつて聖杯戦争に参加した理由でもあったそうだけれど…同じように、僕が君の恋人でなかったのなら、もしかしたら君はもっと幸せになったのだろうか、なんて考えてしまうんだ」


そしてアーサーが訥々と語ったのは、なんとそんな自信のない言葉だった。アーサーの横顔には迷いが浮かんでいる。本当に自分で良かったのか、なんて、まさかこの男から聞くことになるとは思わなかった。


「…俺が愛だなんだってものを知って、まともな人間になれたのは、アーサーがたくさんのことを教えてくれたからだ。初めて俺を抱き締めて、初めて俺が生きることを願ってくれたアーサーだから、俺はたくさんの感情を動かして、ひとつひとつを知っていった。俺をここまで変えておきながら、他のヤツの方が良かったかも、だなんてよく言えたモンだな」

「マスター…、唯斗」

「つーかさ、」


唯斗はアーサーの手を握り足を止める。アーサーも立ち止まり、唯斗に取られた手を見つめる。


「ケーキ入刀までやったんだ、これ実質ハネムーンみたいなもんじゃん。ここまでやってんだから、もう俺にはお前しかいない。俺はアーサーと生きる覚悟を決めて、バビロニアからここまで戦ってきた。いつか来る別れの恐怖も不安も全部、アーサーを愛する感情に付帯するもので、それもひっくるめて一つの『愛』ってやつなんだろ。俺はもう覚悟決めてる。愛する覚悟じゃなくて、愛して生きていく覚悟だ。アーサーへの気持ちは、俺にとってこれからも生きていくための覚悟の上にある」


アーサーへの感情は、ただ愛しいというだけのものではない。たとえ別れることが決まっていても、そのときまで生き続け戦い続けるための覚悟そのものであり、その上に立脚するものだ。
唯斗の言葉を聞いたアーサーは虚を突かれたような顔をしたあと、ふっと破顔する。


「……君にはいつも敵わないな」

「俺もアーサーには敵わないっていつも思ってるけどな。それより、もう星見て歩くの飽きたから、早くホテル帰ろう」


辛気くさい話はここまでだ。唯斗はアーサーに近づいて抱き上げられる体勢になる。慣れすぎてもはや自分から担がれに行っている。
アーサーは苦笑すると、造作もなく唯斗を姫抱きで抱き上げた。


「仰せのままに、我がマスター」

「二人のときは名前呼べって言っただろ」

「失礼。唯斗、僕の愛」


微笑んで、アーサーは一気に地面を蹴って跳躍し、夜空の下で市街地に向けて走り始める。空を切る風を受けながらアーサーの腕に担がれて、唯斗はその首筋に顔を寄せた。


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