サーヴァント・サマー・フェスティバルII−15
翌日、いよいよサバフェスに向けて同人誌の作成は山場を迎えており、初日にXXから助けた葛飾北斎の力も借りて作業は勢いよく進んでいた。
メイヴのこともXXのことも解決したため、立香たちはホテルに籠もるようになり、作業要員が確保されたため唯斗のサーヴァントたちはお役御免となっている。
それでも、心配してたまにサンソンやディルムッドが差し入れを届けに来てくれた。
朝からぶっ通しで作業をしていた中で、西日が差し込み始めたあたりでさすがに休憩に入ることになると、立香とマシュはヘロヘロとしながら一瞬だけ仮眠をするためにそれぞれのベッドに向かった。
ジャンヌ・オルタと刑部姫、北斎は甘いものを摂取し、ロビンはエナジードリンクの量を確認して、今日追加で買うべき数を検討している。牛若丸はまだ元気であるため、ロビンのメモを持って買い物に向かった。
「マスター、いったん外に出よう。今日はずっと室内にいるだろう」
「え、うん、分かった」
唯斗はアーサーに誘われ、外のビーチに出ることになった。
気分転換には良いだろうと唯斗も応じて、エントランスを抜けて夕日が沈みゆくビーチに降りる。
「やっぱ迫力あるな」
夕日が水平線に沈んでいくサンセットビーチはなんとも迫力がある。日本よりも緯度が低いため、太陽との距離が相対的に近く、夕日もやや大きく見えるのだ。
波打ち際に打ち寄せる波の音、離れたストリートから聞こえる喧噪。しかし、ホテルのプライベートビーチであるここは静かで、ちょうどサバフェスを前にどこも佳境に入っているためか人出もまったくなかった。
普段なら沈む夕日を見ようとするサーヴァントがいるものだが、今はその姿もない。
「ちょうど良かった。誰もいないようだね」
「…うん?」
アーサーも人の気配がないことに満足そうだ。どうしたのか、と思っていると、ビーチの中程に進んだところで、アーサーは唯斗を振り返った。
正面に立ったアーサーは、そのまま砂に跪く。
「っ、アーサー…?」
騎士だが王であるアーサーが、こういう体勢になることはほとんどない。ガウェインやディルムッドとは違い、王として対等に接するからだ。
困惑する唯斗に微笑むと、アーサーは羽織っていたパーカーのポケットから、小さな箱を取り出した。
そういうことに疎い唯斗でもよく知っているものに、唯斗の動きも、あるいは呼吸でさえも止まる。
「っ、」
「……君に、受け取って欲しい」
開かれた箱に鎮座するのは、シンプルながら質の良いことが窺えるシルバーの指輪だった。宝石が埋まっているわけでも、特別な言葉が刻まれているわけでもない、飾りのないものだ。しかし、夕日を受けて輝く美しいシルバーは、言葉や装飾で表すことのできないこれまでの道のりを雄弁に語っているようでもあった。
「こ、れ…アーサー、」
「言っただろう?僕も本気で、君との愛を確かなものにしなければならないと。たとえどんなことが起きようと、たとえどれだけ他のサーヴァントに思いを寄せられても、この指輪はいつでも唯斗と僕との愛を示すだろう」
アーサーはいつの間にか、指輪を用意してくれていたらしい。長可に煽られてサーヴァントたちが意識を変えたとき、アーサー自身も色々と考えて、その結果、こうして形にしてくれたのだ。
「…これからも、隣で生きて欲しい」
「ッ、うん、俺も、アーサーの隣にいたい」
視界がぼやけて、絞り出した声が震える。アーサーは微笑むと立ち上がり、唯斗の目元を軽く拭ってから、指輪をそっと唯斗の左手の薬指に差し込んでいく。
冷たい指輪は、すぐに唯斗の体温に馴染んでいく。先ほど夕日を反射していたシルバーが、今は唯斗の薬指で輝いていた。
アーサーはもう一つの指輪を唯斗に渡す。これはペアの指輪であり、アーサーに嵌めるものだろう。それくらいはすぐに理解した唯斗は、もう一度目元を拭ってから、アーサーの左手を取る。