サーヴァント・サマー・フェスティバルII−16
「ふふ、」
「…なんだよ」
アーサーは手を取られて小さく笑う。どうかしたかと見上げると、ひどく優しく和らいだ翡翠と目が合った。
「昨日、君にこうして手を取られたときに思いついたんだ。どんなプロポーズの言葉も、昨晩君が言ってくれた言葉の熱には及ばない。だから、騎士王ともあろう者が、どんな言葉をこの場面で言えばいいか、ひどく悩んでしまった」
「え、昨日の今日で用意したのか…?」
「そうだよ。午前中空けていただろう?」
確かに、今日は朝から「用事がある」と言ってアーサーはホテルにいなかった。まさか、この僅かな時間で指輪を用意してくれていたとは。
そしてアーサーは、昨晩のキラウエアでの会話において、こういうことを思いついたらしい。確かに、唯斗はアーサーの手を取ってプロポーズのようなことを言っていたかもしれない。
急に気恥ずかしく感じたが、唯斗は気を取り直して、アーサーの左手の薬指にも同じ指輪を通した。
唯斗と同じ指に同じ輝きを灯しているのがくすぐったくて、思わず自分の左手とアーサーの左手を見つめてしまう。
アーサーは箱をポケットにしまいつつ、指輪について軽く説明してくれた。
「時間がなくて装飾とかはしていないけれど、それこそ、飾りはいらないかなって思ったんだ。その代わり、この指輪にはメディア殿に頼んで魔術をかけてもらった」
「メディアに?」
「あぁ。大それたものじゃない、ただ、外そうと思ったときしか外れないような、礼装の仕組みを応用した術式なんだ。最初に嵌めた者の魔術回路と薄く接続して、魔力によって外れないように術式が恒常的に展開される。そして、指輪どうしも魔力で繋がる。僕と君のパスがもう一つできるってことだ」
「結構すごいことしてんな…」
そういうのが好きそうな女性であるため、メディアもノリノリで術式をかけてくれたことだろう。
礼装に近い形なら、唯斗もアーサーも、指輪は自らの意志以外では決して外れないということだ。それなら、戦闘でも安心できる。魔術回路のパスが二つになるのは、実務的な効果もあるし、二人の繋がりがそれだけ深くなるのは単純に嬉しい。
すでに夕日は半分が水平線に隠れており、海面はまっすぐ太陽に向けてオレンジ色の道のような煌めきが伸びている。
そこに視線を向けたアーサーは、こちらを微笑んで振り返った。
「お手をどうぞ」
「…、」
波打ち際を背後に、振り返りざまに手を差し出すアーサーがあまりにも格好良くて、唯斗は言葉を継げないまま、その手を取った。
アーサーに連れられて、波に分け入っていく。
サンダルを履いた足に纏うように海水が打ち寄せ、冷たい水が暑い空気に火照った肌に優しい。
少しだけ、脹ら脛あたりまで水に入ったところでアーサーは止まり、太陽を指さした。
「今僕らは、太陽に続く光の道に立っている。この指輪とこの関係の証人は、まさに太陽だ。僕は星を照らす太陽に誓おう。君を守り、君と共に戦い、どんな苦難も隣で乗り越えていくと」
西日を顔の半分に受けながら、真摯なまなざしでアーサーは唯斗を見つめた。そのまっすぐな言葉は、先ほど迷っていたなんて言っていたわりに、唯斗の心を揺らす。
一方的に守るサーヴァントではない。共に歩き、戦うパートナーとして、アーサーは太陽に誓ってくれたのだ。
「…俺も、誓うよ。たとえ別れがあろうと愛して生きていく、この覚悟をずっと持ち続けて、何があっても生きることを諦めない。もう、自分を死んでもいい存在だなんて思わない。アーサーの隣に立ち続けるって、誓う」
唯斗もアーサーの太陽に照らされて輝く瞳を見つめて言えば、アーサーはその瞳を緩め、そして顔を寄せた。
腰を屈めて、唯斗の顎を指輪の輝く左手の指で持ち上げ、海に落ちる二人の影が重なる。
触れた唇の感覚が離れると、アーサーはそっと唯斗を抱き締めた。足下に寄せては返す波を感じながら、太陽の光を半身に受ける。
「…愛している、唯斗」
「……俺も愛してるよ、アーサー」
耳元で囁かれた愛の言葉はシンプルだが、少しだけ震えた声に、アーサーのすべての感情が乗っているような気がした。
愛しいという感情もまた、涙を誘うことがあるのだと、唯斗は目に滲んだものを拭うようにアーサーの肩に顔を埋めながら初めて知った。