悪性隔絶魔境新宿II−3
唯斗とてハサンに怪しさを感じたのは直前のことだったが、それは内緒だ。
一方、ハサンは唐突に口調を変えると、突然、その姿を一変させた。
まるでマントを脱ぐかのように、その見た目が完全に変わる。アーサーが目を見開いているあたり、サーヴァントとして知覚できる要素すら欺いていたようだ。
そこに、地下から立香が急いで上がってきて、唯斗の隣にやってきた。
焦った様子から、恐らく今の変化がカルデアでも観測できたのだと考えられる。
そういえば、唯斗は通信機が壊れたままだった。
『変化していたのか!?いや、違う、あれは変化なんてものじゃない、まるで…』
「まるで、何かな?ダ・ヴィンチちゃん!」
現れた男は、長い髪を後ろでくくり、晒された逞しい上体に鮮やかな薔薇の入れ墨が入った、東洋系の顔立ちのサーヴァントだった。クラスはアサシンで間違いないようだが、その「中身」はまったく異なる存在のようだ。
『ドッペルゲンガー…!?』
「おう、その通り!見た目は侠客、中身も侠客、しかして、その実体は!…その実体は、教える訳にゃあ、いかないな!」
アサシンはそう言うと突然姿を消した。いや、消えたように見えるほどのとてつもない速さでこちらまで移動してきたのだ。この速度は、もはや魔術を超えた魔法の一歩手前である。
瞬間的な速度で言えば、アキレウスと同じくらいか、場合によって短距離であればアサシンの方が速いかもしれない。
「な…ッ、」
「へっ、」
アーサーの真横をすり抜けて目の前に現れたアサシンは、なんと片手で唯斗と立香をそれぞれ抱え上げ、再び目にも止まらぬ速さで駆け出した。
「じゃ、このマスターたちは俺が預かっておくから!」
その捨て台詞とともに大きく飛び上がって道路を駆けていこうとしたが、その目の前に女性二人が瞬時に回り込んで立ちはだかる。
アサシンは急に止まったため、その太い腕に腰を抱えられている唯斗は、頭に血が上るのと同時に強く衝撃が走って一瞬吐き気が込み上げる。
「ほう、面白いな」
「ええ、面白いわね」
「お、美女二人!やっぱ気づいてたかー!いや俺も気づかれてるなーって思ったんだけどね!やっぱりこのどんでん返しは堪えられなくてさ!すまん!」
そこに、ガツン!というとんでもない音が響いてきた。アサシンの背後に頭を向けている状態のため、顔を上げると、体の正面でエクスカリバーをアスファルトに突き立て、こちらを睨む騎士王の姿があった。
アスファルトは抉れており、亀裂が入っている。どんな馬鹿力だ。
「すまないが…マスターのことに関しては、私は王として冷静でいられないんだ」
冷え冷えとした声は今まで聞いたことのない類いのもので、アサシンは冷や汗を垂らしながらニヤリとして軽くアーサーを振り返る。
「っ、いいねェ…やっぱり侠客たるもの、こうやってヒリヒリした空気に身を委ねなきゃな!とはいえ、こんなところで戦うのはあれだ、野暮ってもんだ。じゃ、会いに来てくれよな!こいつらと待ってるぜ!」
「「逃がすか!!」」
アサシンが移動しようとする気配を察知してアルトリアとジャンヌが攻撃を開始するが、それより先にアサシンが飛び上がる。
一気に地面が遠のき、空気を切る音が耳元で鳴る。風と重力に逆らう感覚で血の気が引いた。反対側の腕に抱えられた立香も口元を手で押さえている。
前方に新宿区を取り囲む壁が見えたかと思うと、近くのビルの壁面を足場にしてアサシンは瞬時に飛び出す。
まずい、このままでは本当に連れ去られる、と思ったときだった。