サーヴァント・サマー・フェスティバルII−24
刑部姫はからりと笑って去って行った。扉を閉めて、唯斗は渡されたコピー本を持ってソファーに座る。
ページを開いて読み進めていくと、僅かな時間で描いたにしてはクオリティの高い絵が続いていた。そこには、壮大なストーリーも胸躍る恋模様が描かれるわけでもない。
アーサーが、唯斗を連れてアヴァロンの花畑をひたすら歩いているシーンが続くのだ。
ぽつぽつと会話はあるものの、二人はただ穏やかに、花びらの舞う美しい理想郷を歩いて行く。
アーサー王は、最後にアヴァロンに至り永遠の王となる定めだ。実際、アーサーもそうしてアヴァロンに至ってから、ビースト討伐のために世界を流浪するようになった。
その楽園に、アーサーは旅の果てとして、唯斗を連れてきた。そのまま二人は、永遠に理想郷で暮らした、という、まるで童話のようなハッピーエンド。
これはきっと、刑部姫が願った結末だ。唯斗たちに、こうなって欲しい、という思いを形にしてくれたものなのだろう。
そこにアーサーが帰ってきて、食事の乗ったプレートをシッティングスペースのローテーブルに置く。
「おや、どうしたんだい、その本」
「さっき刑部姫にもらったんだ。今回はコピー本、作ったはいいけど出さなかったんだって。一冊だけ製本して渡してくれたんだ」
「へぇ、読んでもいいかい?」
表紙からアーサーと唯斗のものだと理解したアーサーは、唯斗の左隣に腰掛けると、本を捲る。
薄いページ数のため、読み終わるのに本来は時間のかかるものではない。だが、これは行間というか、この間を楽しむためのもののようだ。内容よりもずっと時間をかけて読んだ後、アーサーはそっと本をテーブルに置いた。
「……とても素晴らしい作品だったね。彼女の僕らに対する願いと思いがことさらに詰まっていた。そして、僕にとってもこれは、夢想する願いそのものだ」
「願い?」
「君をアヴァロンに連れて行くことができればいいのに、なんて、今まで何度空想したことか」
アーサーは小さく笑うと、唯斗をそっと抱き寄せた。アーサーに凭れると、テーブルに置かれた、花畑を歩く二人の表紙が視界に入る。
「アヴァロンそのものに時間の概念はない…俺が行っても年を取らないってことか。いやでも、そんなの向こうのマーリンが許すのか?」
「許すとも。彼女は面白がって君を招待…いや、拉致くらいはしそうだ。もちろん、それができるかどうかなんて考えたこともないし、僕には分からない。いや、誰にも分からないことだ。何より、君にとっては、この世界での人生を終えることと同義だ。夢に描くほど簡単なものじゃないだろう」
確かに、それは人間としての普通の人生を終えることに等しい。
正直、そこまでの未来を考えたことなどなかった。
近い目的から言えば、まずは残る最後の魔神柱を見つけて倒す必要がある。そして、人理修復で生じた特異点をすべて修正する。
それらが終わったら、魔術協会の査問とカルデアの再編、マスター二人の処遇の決定を経て、唯斗とアーサーの二人でカルデアに残ることができるようであれば、ビーストVIの捜索をさせてもらう。
「…もし、ビーストVIが見つかってもいないのに、俺がカルデアを追い出されることになったら、良くて日本へ強制送還、悪ければ時計塔に監禁・封印、あるいは研究対象として解体される、なんてこともあると思う。ダ・ヴィンチたちはそうならないように努力はしてくれるけど……そうなったら、どうする?」
「簡単なことさ。君を連れて逃亡する」
意外な答えに、唯斗は思わずアーサーを見上げた。唯斗がカルデアを追い出されるとはつまり、契約が解除されてサーヴァントではなくなるということだからだ。
しかしアーサーは冗談やただの希望でもなく、具体的な方策の一つとして言っている。そういうトーンだ。
「ど、どうやって。システム・フェイトなしに現界を維持するなんて……」
「できるよ。そのために、マーリンは君の魔術回路を強くしたんだろう」
アーサーの冷静な指摘にはっとする。第七特異点でマーリンに魔術回路を強くしてもらったが、当時あれは迫り来る厄災・ビーストIIへの対処のためだった。だが、マーリンにはもう一つ目的があったらしい。