サーヴァント・サマー・フェスティバルII−25
「彼は、君に何かあったとき、僕がカルデアに頼らずとも契約と現界を維持できるよう、君の魔術回路を強くした。恐らく、カルデアのエネルギーがすべて途絶えたとしても、現界そのものは君の魔力だけで可能だと思うよ」
「…もともとアーサーには世界を渡る力が付与されているってことと、俺との魔術回路が太くなってるからか」
マーリンによる魔術回路の増強、体を重ねたことによる身体的なパスの増強、そしてアーサー自身の力や向こうのマーリンの魔術によって、たとえカルデアのエネルギーがなくとも、アーサーは唯斗との契約を保って現界し続けられるという。
「もちろん、宝具を解放することはおろか、通常の魔力放出なんかもできない。ただの剣士として存在することになるだろう」
「それでもアーサーってだけで十分強い。そうか、それに加えてこの指輪か」
「そういうこと。何があっても君を守れるようにね」
この指輪は、ある意味、もう一つの契約だ。結婚というものも契約の一種だが、これはより魔術めいたものだ。
この指輪を通して二人は新たな回路で接続されているため、もうひとつ契約が成立している。これによって、二人の間のパスはかつてないほど強まった。
「もしこの世界がすべてハッピーエンドを迎えて、晴れて僕も目的を果たしたなら。そのとき改めて君に意志を尋ね、君が頷いて魔術的問題もなければ…君をアヴァロンに連れて行く。この指輪を渡したとき、僕はそこまで覚悟した。君が、旅の終わりや目的の遂行という関係の終わりを理解してなお、共に在ろうと覚悟してくれたように」
あぁ、アーサーはそこまで覚悟してくれていたのだ。そう理解した途端、唯斗は胸いっぱいに、安堵と喜びが広がるのを理解した。
唯斗の処遇がこの先どうなっても、いずれにせよ、ビーストVIを倒せばアーサーは元いた世界に帰っていく。唯斗にとって、アーサーとの別れは比較的近い未来に確実に起こること、という認識だったし、それ自体はアーサーも共有していた。
しかしアーサーは、すでにマーリンが手を打っていたことに気づいた上で、さらにこれを確かなものにするため、という意図も籠めて、指輪を贈ってくれたのだ。二重の契約を発生させることで繋がりを強固なものとし、何があっても隣にいられるように。
何よりアーサーは、終わりを覚悟して戦う唯斗のために、その先を提示してくれた。いくら人理修復に寄与したと言っても、ただの人間である唯斗がアヴァロンに入れるのかは分からない。それでも、それが叶うなら。
「…俺も、ずっとアーサーと一緒にいられるなら…そういう結末がいい。たとえ夢物語に終わるかもしれないものでも、アーサーがそこまで覚悟してくれたってだけで、本当に、嬉しいんだ」
「大丈夫、君は今までたくさん頑張ってきた。幸せになって然るべきだ」
アーサーに頭を撫でられながら、背もたれのクッションに凭れて体を後ろに傾けたアーサーの胸板に顔を乗せる。すると、その先の左手に輝くものが見えた。
唯斗はその左手をとって、自分の左手と重ねる。触れ合ったシルバーの輝きが、アーサーと同じ指に燦然としていることが嬉しくて、唯斗は小さく笑う。
「…なんかもう、十分幸せになってるけどな」
「……いいや。君はもっともっと幸せになるべきだ。いや、僕が君をこれ以上にもっと幸せにするよ」
「ん…じゃあ、一緒にもっとたくさん幸せになろう。俺もアーサーのこと、幸せにできるように頑張るから。一緒に歩いて、一緒に戦って、そんで、一緒に幸せだなって笑おう」
顔を上げてその翡翠を至近距離で見つめながら言えば、アーサーは微笑んでから、触れるだけのキスをひとつ交わす。
「隣にいてくれるのが君で良かった」
「俺も、アーサーの隣に立てて良かった」
アーサーとの愛を確かめる場面は何度もあった。その中でもとりわけ、この夏のひとときは特別なものになった。
二人の愛が形になって、互いに覚悟も決意も願いも口に出来た。
間違いなく、この先何があっても、この夏の思い出が唯斗を励ましてくれる。そう思った。