愛しき過去にさよならを−2
「ホームズは、アーサーのように世界間を移動する存在、宮本武蔵が要因になってるって思ってるんだろ?」
恐らくホームズはそこまで推測しているのだろう、と指摘すると、ホームズは片眉を上げる。
「お見通しとはね。その通り、私の推測…憶測では、宮本武蔵の世界間移動という特性が、ミスター・藤丸の意識を江戸時代にシフトさせた理由だと考えている」
「でもそれだと、唯斗君だってアーサー王に引きずられかねないよ?」
ダ・ヴィンチはアーサーと唯斗の例を挙げるが、ホームズは「いや」と否定する。
「単独ではそうはならない。今回も、宮本武蔵は鍵であって直接の原因ではないだろう」
「ふーん?つまり宮本武蔵の世界間移動能力に引きずられたわけじゃないと。じゃあなんだっていうんだい?」
「…宮本武蔵はこの世界の人間ではない。なら、この世界にとって宮本武蔵は予期せぬ存在だ。バビロニアにとってカルデアが未来を変える一石となったように、異世界・異次元からの異分子は世界の未来に影響する」
バビロニアの人々では、ギルガメッシュも含め、滅びの運命に太刀打ちできなかった。そのように運命づけられた、その世界の装置のひとつだったからだ。しかしカルデアはそうではなく、もともとその空間にとっては組み込まれていない存在である。そのため、未来を変える力を持っていた。その世界の未来や運命に干渉する力を持っていたということだ。
「世界を渡り歩く者には、移動した先の世界に対してあらゆる可能性が付与される。可能性と言えば聞こえはいいが、不確実要素ということでもある。完全な異物だよ。そんな無数の可能性を、綿密に組まれた世界の因果にエントロピーを与える存在を、世界は許容しきれない。もし、そんな存在が、二人も存在したら?」
ホームズの言葉は、ようやくクリアなものになった。これだけのことを言うのに随分と時間を要したものだ。
あらゆる可能性を内包した世界の異分子、それが一つの時空に二人存在したらどうなってしまうのか。
ホームズの意図を理解して押し黙る3人に、ホームズは言葉をつづけた。
「私は、このように世界線を渡り歩く存在を『移動特異点』として定義したい。存在しているだけで、その時点の歴史を狂わせ得る存在だ。そして、移動特異点が複数存在してしまえば、それはとてつもないインパクトを世界に与えるだろう」
「…なるほどな。つまり、立香が引きずり込まれたのは、移動特異点の衝突による衝撃、って言いたいわけだな」
「その通りだ、ミスター・雨宮」
つまり、アーサーと宮本武蔵以外にもう一人、そのような存在がいるということだ。にわかには信じがたいが理屈は叶っているように聞こえる。
「じゃあ、移動特異点となる人物二人がたまたま出会ってしまったのか、そうなる原因があったのか、そのあたりは立香の座標を観測でき次第だな。もしかしたら、宮本武蔵は抑止のように呼び出されたのかもしれない」
「なるほど、特異点が発生し、抑止力として宮本武蔵が呼び出されたものの、その特異点の発生原因が別の移動特異点となる人物だったと」
ダ・ヴィンチも合点して頷く。ホームズの推測は綺麗に筋が通っているものの、突拍子もない話でもあった。
「辻褄は合うけど、やっぱ憶測の域を出ねぇな。早く立香の座標を補足しないと」
「私もそれには大いに賛成だとも。そも、こんな杜撰な憶測、推理とすら言えないからね」
「…マスター、私も移動特異点として、宮本武蔵殿と会ってしまえば困ったことになるんだろうか」
すると、アーサーがそう尋ねてきた。確かに、アーサーからすれば特異点呼ばわりは気持ちのいいものではないだろう。
「いや、多分そのあたりは向こうのマーリンがコントロールしてるんじゃないか?そもそもアーサーの力であるエクスカリバーは、拘束の解除が必要だ。世界を狂わせかねない事象では承認が下りないと思う」
「そうだねぇ、わざわざ世界を転移させるような魔術師だ。それくらいは織り込み済みじゃないかな。騎士王自身が世界に与える可能性を最小限にしてると思うよ」
「まあ、それも推測だがね」
すげなく言ったホームズに、唯斗は机の下でホームズの足を蹴ってやった。