愛しき過去にさよならを−4


そうして、まずはカルデアから大まかな情報を共有した。そこが正史ではないこと、移動特異点なる存在の仮説、存在証明やレイシフトの準備はすでに着手していることなどを告げる。
一方、立香からはとんでもない情報の数々が寄せられた。

まず、後ろの女性はやはり宮本武蔵、美人だが人間離れした技を見せるという。そしてもう一人の男が千子村正、かの名工・村正一派の初代だ。セイバーのサーヴァントとして鍛冶師が召喚されるということが意外だったが、その地に呼ばれた以上、向こうの世界の人理を乱す事象が起きているということだ。

そしてその事象というのが、妖術師なる人物による、英霊剣豪の使役と厭離穢土城の顕現。
英霊剣豪というサーヴァントたちは、常陸から上総、下総と大量の人間たちを殺害しながら暴れまわり、その魂を穢土城にくべることで、とてつもないエネルギーを発動するという。それによってこちらの世界に干渉して、あまねく「徳川の治世」を消滅させるのが目的らしい。

なぜ徳川を恨むのか、それは、妖術師という存在が天草四郎の別側面であるだめだ。いや、別世界の天草だという。
この天草は島原の乱を極度に恨み、一人生き延び、徳川への恨みを募らせながら世界を転々とし、様々な世界を滅ぼしてきた。

そう、この天草こそが移動特異点だったのだ。

妖術師・天草による世界の滅亡と正史への干渉計画、それに対するカウンターとして、村正や武蔵が招かれ、移動特異点が揃った衝撃と縁によって立香も引きずり込まれた。

現在、立香たちは穢土城の完全起動を防ぐべく最終局面に差し掛かっているらしい。

やはり事態は悪いものだったため、その場ではいったん通信は終わる。次にいつ立香と連絡が取れるか分からないが、とりあえずは存在証明と帰還レイシフト準備に取り掛かることになる。

一方、ホームズは唯斗に声をかけてきた。


「ミスター・雨宮。事実、アーサー王はグランドオーダーに影響を与えたわけだが…イフの人類史が正史に影響すると思うかね?」

「さっきも疑問に思ったけど、そんなことあるかなぁ〜?」


ダ・ヴィンチは懐疑的だ。唯斗もまずもって考えられない、というのが正直なところである。


「アーサーはあくまで個人。でも、妖術師がやろうとしてることは、世界による世界への干渉だろ?それが成立するには、正史が干渉を受けるほどに弱まる必要がある。黒という色を赤や青が上塗りできないのと同じだ。灰色くらいまで薄まらないと、他の色で上書きできない」

「良い喩えだ、ミスター。私も使おう。そして同意するよ。騎士王がいた世界と違い、亜種並行世界は我々の人類史から枝分かれしたただのイフ。そんな脆弱な剪定事象が、正史に干渉するのは不可能だ。実現するには、正史…いわゆる汎人類史の存在力が弱まらなければならないだろうね」


また、唯斗は先ほどの通信で小太郎たちが言っていたことも思い出す。


「妖術師はサタン、とか言ってたけど。世界が世界に干渉するってんなら、そもそも外的要因が必要だ。世界を別の世界に乗っけるっていう、外側からの行動が必要になるはず。それってつまり、異なる世界線を俯瞰的に見つめる存在がいるってことだろ?それがサタンってわけなんだろうけど…そんなもんがいるのか?」

「そりゃあいてもおかしくないさ。事実、我々はフォーリナーという存在をすでに知っているだろう?世界の外側ってのは、案外近くにあるんだと私もカルデアで初めて知ったよ」


それにはダ・ヴィンチが答えた。確かに、フォーリナーという外宇宙の存在は、そうした俯瞰的な存在の余地を残す事実だろう。


それからしばらくして、再び立香から通信が繋がった頃には、向こうでの事態はすべて収集していた。カルデアでも、莫大なエネルギー反応が急速に消失していくことを観測している。

また、いつの間にかカルデアの外に武蔵が出現したようで、極寒の外で出迎えたホームズ曰く、立香を守って命を落とした武蔵はカルデアのサーヴァントとして登録され、召喚されたものの雪山に出現し、あまつさえそのまま「外の世界を見てくる」と言って旅に出てしまったのだという。
あまりにも自由だ。
そしてやはり、アーサーと同じ次元に存在しても大丈夫なようで、アーサーに対する向こうのマーリンの制御が効いているという唯斗の予測は恐らく合っているようだった。


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