愛しき過去にさよならを−5
なんとかこの事態も解決したところで、唯斗は立香に呼び出された。医務室から自室に戻っている立香に呼ばれるということは、どこか具合が悪いのだろうか、と唯斗は心配しながら立香の部屋に駆けつける。
中に入ると、忍び込んでいるサーヴァントたちも今回ばかりは姿を消しており、立香が一人でベッドに横になっていた。
「立香?どうした?」
「ごめんね、呼び出しちゃって」
さすがに立香も立てないようで、ベッドの横を示されて唯斗も立香の隣に腰掛けると、おもむろに立香は唯斗を抱き締めた。
相変わらず唯斗より逞しい体に抱き込まれ、唯斗は目が点になる。
「…なんかあったのか」
「……うん。今回さ、すごい、たくさんの人を助けられなかった。目の前で、たくさん」
「っ…そうか」
どうやら、向こうで立香は多くを助けられなかったらしい。結果的に、立香たちが成し遂げた穢土城の破壊は、あの世界のすべての人々を救っているはずだが、目の前で助けられなかった人々のことが立香には今も脳裏に浮かぶようだ。
当然だろう、唯斗だってきっとそうなるし、心優しい立香ならなおさらだ。
「…唯斗がいればな、って、俺ずっと思ってた」
「え…」
「唯斗が一緒にいてくれれば、たくさんの人を守れたし、小太郎をつらい目に遭わせなかったし、武蔵ちゃんも死なずに済んだ」
立香はかなり参っているようだ。ここまで弱音を吐くところは初めて見た。
いや、似たようなことはあった。新宿のあと、ロマニがいないことを改めて実感して参っていた立香を、まったく同じように励ました覚えがある。
そうやって、立香が唯斗に対して弱いところを見せてくれることが嬉しい。ガウェインやアーサー、サンソンがずっと唯斗に言ってくれていることでもあるのだろう。頼られると嬉しいというのは、きっとこういう感情だ。
「…俺もさ、グランドオーダー中は、ずっと立香に劣等感を感じてた」
「えっ、唯斗が?」
立香は唯斗の言葉が意外だったのか、体を離してキョトンとする。確かに、魔術では唯斗の方がはるかに優秀だったかもしれないが、それが重要なことではないのだと、二人ともよく知っている。
「俺は立香みたいになれなかったから。それまでの人生、立香みたいに善人でいられなかった。もちろん、今はそうじゃないって分かってる。でも、俺は本当はいらなくて、立香だけいればグランドオーダーが成功するって確信したのは、立香のそういう人間性が俺にはないもので、それこそが人理を救うに相応しかったからだ」
「唯斗……」
立香は、唯斗が自分を卑下するために言っているのではなく、単純に当時はそう思っていた、という話であることを理解している。
これを直接立香に話したのはこれが初めてだが、今こそ話せてよかったとも思う。
「…俺はさ、慰めたり、気分転換させたりってこと、できねぇけど。立香が感じた悔しさも悲しさも、共有できる。同じ、カルデアのマスターだから。一人にしないって、何度か言ったし、こうやって俺のこと呼んでくれたのも嬉しかった」
「…うん、ありがと。俺さ、唯斗がルルハワで俺のために天草とか鈴鹿とかと時間作ってくれたって、なぎこさんに聞いちゃったんだ」
「……え、マジで」
「マジ。そんとき、唯斗は本当に優しいな、好きだなって思ったけど、やっぱ今も同じように思うよ。唯斗がカルデアにいてくれてよかった」
あのときのことが立香にバレていたというのは気恥ずかしいが、立香が本当に嬉しそうに唯斗を改めて抱き締めてきたため、その背中を撫でるに留める。
バビロニアでも、唯斗は立香を一人にしないと告げた。あのときから変わっていない。立香とただ一人、立場を同じくするからこそ、唯斗にしかできないことがある。
それは義務感でもなんでもなく、隣でいつも一緒に戦う仲間への、自然な感情だった。