愛しき過去にさよならを−9


翌日、通勤ラッシュの時間を過ぎてから、ホテルの朝食もとって、一同は東京の街へと繰り出した。

ちなみに、それぞれ目立たないよう、霊衣を変更している。メディアとマーリンの力によるものだが、全員、ルルハワなどでも霊衣変更の経験があるため容易だった。

まず英雄王は、自分で「我はこれが馴染みある」と言って、白いVネックシャツに丈の短いライダージャケットのような黒いジャケット、黒いスラックスという格好になった。それを見てさらにメディアとランサー、エミヤが微妙な顔をする。
ランサーは白い半袖Tシャツとジーパンというラフな格好、オジマンディアスはルルハワと同じ黒いシャツに白いスラックスである。マーリンも同様にルルハワと同じネイビーのシャツにストール、黒いスキニーパンツだった。

アーサーはというと、ワインレッドのシャツに黒いテイラージャケット、黒いスラックスとシンプルながら格好いい出で立ちである。

なお、メディアは人目につきたくないと霊体化を選んでいる。

また、エミヤも、今回は唯斗の家の監視を依頼しているため、霊体化して張り込みをしてもらうことになっていた。


「それにしても、ここで制服を着ることになるとはね…」

「ほんとにな」


そしてマスター二人はというと、いつもの白い礼装だとやはり目立ってしまうので、制服を着ていた。二人とも、ダ・ヴィンチが二人の高校の制服をコピーして礼装化したものを用意されており、立香は黒い学ラン、唯斗はネイビーのブレザーにダークレッドのネクタイという格好だった。


『11月の東京であれば、それなりに気温は低いはずですが、ランサーさんは半袖でよいのでしょうか?』

「この時期でも、半袖の外国人ってよく東京で見かけるし、問題ないよマシュ」


全員、見るからに異国の人間であるため、格好そのものは自然に見えるだろう。外国人というだけである程度目立つことは避けられない。

そうして、実に2年ぶりとなる制服姿で、唯斗はアーサー、オジマンディアス、マーリンとともにホテルを出た。ここからは立香たちとは別行動だ。

立香たちは山手線を一周して、基幹術式の解析を行う。
唯斗たちは三手に分かれ、マーリンは東西線を三鷹駅から南砂町駅まで、唯斗とオジマンディアスは地下鉄三田線を大手町駅から多摩川駅まで、アーサーは大手町駅から西高島平駅まで移動する。最後にマーリンとも大手町で合流する予定だ。
なお、唯斗の家をエミヤが監視するほか、英雄王も「我は自由行動だ。王がフィールドワークなどするわけなかろう」とどこかに行っている。あれで無意味なことはしない人だ、何か考えていることがあるのだろう。

唯斗たちはいったん丸ノ内線の新宿駅から地下鉄丸ノ内線に乗り込んだが、これはどんな格好をしていても目立ったのは、と今更気づく。


「ねぇ、あの外国人集団イケメンすぎない?モデルとか俳優かな」

「そんな人が地下鉄乗ってるわけないじゃん!でもちょっと雰囲気ありすぎだよね」

「なんか王様みた〜い」


小声で話している女性たち。言葉にしないまでもそれに同意しているであろう車内の人々。ピークは過ぎたとはいえ、それなりに人が乗っている丸ノ内線の車内は、突然現れた美丈夫たちに静かに騒然としていた。


「言ってやるかい?ブリテン王とエジプト王だって」

「英国王室と石油王って言ったら多分マジで信じるぞあれ」


面白そうにするマーリンに、唯斗も呆れたように返す。現代東京の人間が王気に気づいたあたり、この二人の王としての気配が格別ということだ。


「フン、民が余のもご「声抑えてくれ…!」不敬だぞ唯斗」


でかい声で口を開いたオジマンディアスに、慌てて唯斗はその口元を手で押さえる。じろりとオジマンディアスは唯斗を睨むものの、驚いたようにこちらに目を向ける人々の好奇の目に比べればマシだ。
しかもオジマンディアスは、口元を押さえるために体を寄せた唯斗の腰を抱き、唯斗の手を外すと耳元で囁いた。


「ならば貴様が口で塞げばよかろう?」

「な…ッ!」

「…ライダー、公共の場だ。慎みはないのか」

「ハッ、余が何を慎む必要があるというのだ」


『次は四谷三丁目』というアナウンスを聞きながら、唯斗は王様二人と宮廷魔術師を伴って地下鉄に乗るということの苦労を痛感し、胃がキリキリとするのを感じた。


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