愛しき過去にさよならを−10
寿命が縮む思いをしながらなんとかオジマンディアスのでかい声を抑えさせること10分と少し、大手町に到着する。
いったんアーサーとオジマンディアスを待機させてから、唯斗はマーリンを連れて東西線のホームまで移動する。
「よしマーリン、最後の確認だ。まずこの電車に乗ってからどうする?」
「三鷹駅までずっと乗っていればいいんだろう?そしてそのまま乗っていれば、電車は勝手に折り返す」
「そう。そしたらどこで降りるんだ?」
「南砂町。降りたら向かいのホームで三鷹行きか中野行きに乗る」
「そう。最後に降りるのは?」
「大手町、ここだね」
「よし完璧だ」
この電車が車庫に入らないことは確認済みだ。終点の三鷹駅で折り返した東西線にそのまま乗り続け、南砂町でいったん降りて再び三鷹方面に乗り換える。そして大手町で降りて唯斗たちと合流する、という寸法だ。
マーリンは単独行動が可能な人物のため、東西南北に東京を横縦断するという時間の掛かるミッションにおいて一人で調査を任せられる。
マーリンを東西線に乗せてから唯斗は再びアーサーたちのもとに戻り、今度は二人と三田線のホームに移動した。
大手町を起点に、北方向にはアーサーが、南方向には唯斗とオジマンディアスで移動する。アーサーも単独行動が可能であることから、二つに分けることができた。アーサーもある程度魔力の流れを知覚できるため、問題なく術式を感知できるだろう。
「じゃあアーサー、終点の西高島平駅で折り返してこいよ」
「分かってるよ。ライダー、くれぐれもマスターに変なことをしないように」
「余に忠告とは大きく出たな騎士王。今ここで消し炭にするのも吝かではないぞ?」
「アーサー…」
「分かったよ。では気をつけてね、マスター」
アーサーはオジマンディアスを一通り煽ってから、三田線を北へと向かう列車に乗り込んだ。
そうしてオジマンディアスと二人になった唯斗は、逆方向に向かう電車を待つホームに立った。ここから三田線で目黒駅まで行くと、そこからは私鉄に直通して神奈川方面へと進む。神奈川県に入る直前、多摩川駅で折り返す予定だ。
ここから30分ちょっと、折り返しを含めて1時間は電車に乗っていることになる。
それくらい長い間オジマンディアスと二人、というのはあまり経験がなく、現代の装いであることもあって、なんだか慣れない感じがする。
大手町でたくさんの乗客が降りたことでガラガラになった車内、入れ替わりに中へと入ってく人々の合間でオジマンディアスの手を引いて座席に横並びに座る。右隣に座るオジマンディアスは、キョロキョロとまではいかないが、興味深そうに周りを見ていた。
「以前の聖杯戦争でも思ったが、現代というのは民衆ですら華美な服を着るのだな。華やかな装いとは王のもの、あまねく民衆が着るとは、なんと陳腐なものか」
「代わりに王族はもっとすごい服着るけどな。所詮は技術革新による大量生産の結果だ、良いものを大量に作れるようになった結果、昔みたいな一点ものの価値が逆に上がるんだ。手作りの方が高い」
「皮肉なものよな」
そうした人類の歩みそのものを否定する気はないようで、特にお洒落な人が多い三田線ということもあり、人々の服装を見る目は楽しげだ。
いったいどんな会話だ、と二人の隣に座る人や前に立っている人々も思っているだろうが、もうそのレベルでは気にしていない。おとなしく静かにしてくれていればそれで良かった。