愛しき過去にさよならを−11


どんな会話でも気にしない、と思った唯斗だったが、オジマンディアスに質問攻めになる中で考えを改めた。

どうやらオジマンディアスは、アーサーやマーリンがいた手前泰然としていたようだったが、こうして二人きりになった途端、あれはなんだこれはなんだと質問を浴びせてきているのだ。


「ここは地下道だったな」

「そうだよ」

「どのようにして地下にこれだけの空間を掘ったのだ?手作業ではあるまい。何やら機械を使うのだろうが、鉄の箱を連結して動かすだけのエネルギーを持った空間だ、並大抵のことではあるまい」

「ええ…東京の地下鉄の歴史も古いからな。今から100年くらい前のことだし。当時は、大通りにいったん穴を空けて、線路を引いて、蓋をするって形でやってたんだったと思う。70年代くらいから、シールド工法っていう、馬鹿でかいドリルで掘削する形式だな」

「しかし、この地下道が崩落して地上の家も落ちるようなことにはならぬのか」

「万一そうなってもいいように、基本的には地下鉄は大通りの地下に造られる。もちろん、地下40メートルまでは土地の所有権が及ぶから、かなりの路線がそんな深いところを通ってないこともあって、所有権が地下に存在しない道の地下になったってのもあるけどな」


なお、一番地面に近いところを走るのは銀座線で、なんと地下1.5メートルである。本来は15メートルの深さで許可を得ていたが、関東大震災による資金難で、1.5メートルに修正して再申請、役所はそれに気づかず通してしまった、という曰く付きだ。


「では、先ほどから駅に止まる度に別の鉄道が乗り換えられると告げられているが、いったいいくつあるのだ?」

「えーと確か、東京の鉄道って80ちょっと路線があった気がする。そのうち地下鉄が13路線だな。東京だけで一国に匹敵する路線距離がある」

「…、極東の島国と侮っていたが…未来ともなるとそれほどか」

「ソウルとかニューヨークとか、ロンドンやベルリン、パリ、上海だってすごい。まぁ、東京は鉄道の種類がとにかく多いからなぁ…東京の人口は1400万人近く、東京を中心とする都市圏の人口は3000万人だ。紀元前1000年代の世界の総人口が5000万人くらいのはずだから、あんたの時代の世界人口に匹敵する数の足をまかなってるってことになる」

「貴様はいったいその頭のどこにそれだけの知識を詰め込んでおるのだ」


律儀に答えてやったというのに、オジマンディアスはドン引きしていた。
「なんで俺が引かれてんだよ」と苦笑していると、突然、オジマンディアスは唯斗の頭をそっと撫でてきた。
脈絡のないそれに動きが止まる。一瞬遅れて、唯斗は驚いてオジマンディアスを見上げた。


「…え、なに」

「ようやく表情が戻ったな。昨日から固い表情だっただろう」

「あー…まぁ、な」


どうやらオジマンディアスなりに唯斗を案じてくれていたようだ。
それはそうだろう。さすがに、唯斗も動揺を隠せなかった。立香やダ・ヴィンチたちに助けられて、メディアやマーリンも事務的な話に応じてくれたから、昨日はなんとか普通にしていられたのだ。
それでも表情や声音は固かった。自分でもよく分かっている。


「…さすがに、自分がいない方が幸せそうな家族の姿、ってのは…ちょっと、きつい」

「極めて当然のことを言うでない。そも、自身が殺されかけた直後の家を拠点にしようなどという発想からしておかしいだろう」

「…俺、おかしいのかな」


ぽつりと漏らした唯斗の言葉は、ちょうど御成門駅を出発したばかりで騒音が小さい状況のため、オジマンディアスにもよく聞こえたことだろう。もともとサーヴァントであるため、大江戸線の車内であっても通常通り聞こえただろうが。


「…お前に徒人と違う点があったとして、それはお前のせいではない。そしてそれも含めてお前という存在であり、余が好ましく思うお前の在り様だ」

「オジマンディアス……」

「故に、恐れるな。その葛藤も、苦しみも、悲しみも、すべて晒すことを恐れる必要はない。この光輝の王、ファラオの中のファラオたる余が、他ならぬお前を求めているのだという事実をもって、受け入れてやろう」


どんなに弱みを見せても、苦しさやつらさを隠しきれなくても、すべて受け止めてやるとオジマンディアスは言ってくれている。在るがままに在れ、ということだろう。
オジマンディアスがそう言ってくれたことが嬉しくて、唯斗はつい、右隣の肩に凭れる。

さすがに不敬と怒られるかと思ったが、意外にも怒ることはなく、頭を撫でていた手で唯斗の肩を抱いてくれた。うっかり寝てしまってはまずいため、唯斗はその状態で再度、オジマンディアスからの質問に一つ一つ答えていった。
なんでもない、些細な光景への質問でしかなかったが、そうやってオジマンディアスとゆっくり会話を続けている時間によって、少しずつ、昨日の衝撃を和らげていけた。


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