愛しき過去にさよならを−12
マーリン、アーサーと無事に大手町で合流し、新宿のホテルに戻ると、立香たちも戻ってきていた。
まだ英雄王は戻っていないが、昼食の前に互いに報告を済ませることにする。
再びダイニングテーブルの地図を囲んで、立香、マーリン、メディアと話し合いに入る。
「まず俺たちが見てきた山手線だけど、やっぱり山手線そのものが基幹術式になってるみたい」
「円を描くこの鉄道そのものが術式を構成しているわ。そして、この円を東西に貫くこの路線、そして東寄りに円に沿って南北に進むこの路線。これらが軸となっている」
「総武線と京浜東北線だね。山手線と合わせてこの3つの路線が、今回の術式の骨組みってことらしいよ」
立香とメディアが示したのは、山手線、中央総武線、そして京浜東北線の3路線。総武線は御茶ノ水から総武線として千葉方向に抜けていくが、それより西側は中央線と同じ線路を走っている。中央線の各駅停車の役割を総武線が担い、中央線は快速以上の運転を行う形だ。
続けて、唯斗とマーリンで道中に至った結論を共有する。
「俺たちは三田線と東西線で巡ってきたけど、拡張術式は道路と川で構成されてる。それぞれ、環状七号線と隅田川による内側のラインと、環状八号線と荒川による外側のライン。魔力の流れは環八から内側にしか確認されなかった」
『これはとてつもなく巨大な術式だ。帝都の比じゃない。いったい何をするつもりなんだ…?』
「そこまではお手上げさ。私もマイロードも、術式の仕組みまでは分からなかった。メディア殿は?」
「私にもさっぱり。スケールが大きいのに、緻密に組まれてて、全体を把握できない」
術式の構造そのものはこれで特定された。東京23区を環状に繋ぐ道路である、環八と環七、そして23区東部を流れる隅田川と荒川。これらを繋いでできる巨大な円が拡張術式だ。
その内側にある山手線が基幹術式となっており、計3本の円によって術式はできている。
そして、この3つの円を繋ぐようにして魔力を循環させているのが、総武線と京浜東北線ということだ。
『つまり結節点とは、東西南北の鉄道路線と、山手線、環七、環八が交差する場所、ということですね』
マシュの理解した通り、魔力供給の起点となる結節点は、それぞれが繋がる場所である。
唯斗は地図を指で示しながら、該当する地名を挙げていく。
「西の結節点は、内側から順に新宿駅、高円寺駅、そして荻窪駅。南の結節点は、品川駅、大森駅、蒲田駅。東は秋葉原駅、両国駅、平井駅。そして北は田端駅、東十条駅、赤羽駅か」
『問題は、この術式を構成する魔力がどこから来ているか、だが…術式の構成そのものは、聖杯の魔力じゃなさそうだね。聖杯なら、中心となる巨大なエネルギー源があるはず。でも、この術式は結節点以外の部分はすべて平準化されているし、結節点同士も強弱の優劣がない。そして東京都心にまともな霊脈も見当たらない…となると…』
「間違いなく、この鉄道や道路、運河を使う人々のエネルギーだろうねぇ」
マーリンが告げた確定された予想に、全員ため息をつきたくなる。かなり悪質な術式だからだ。明確に悪意を感じる。
「…ダ・ヴィンチ、この結節点を無理矢理破壊すると……」
『唯斗君が予想している通りだよ。周辺の人々に犠牲者が出る』
「慎重に解除していくしかない、ということね」
それができるのはメディアとマーリンだけだ。全部で12カ所もある。
するとそこに、豪快に扉を開けて英雄王が帰ってきた。ずかずかとやってくるなり、唯斗の横にずいと割り込んで地図を示す。
「この場所で、結節点を無理矢理破壊した輩がいるようだ。報道になっている。結節点らしき場所の周辺にも魔術師らしき人物の姿を多く見かけた」
ギルガメッシュが示したのは平井駅だ。慌ててテレビをつけると、報道番組が速報を伝えている。
『平井駅周辺で大規模なガス漏れか、300人以上が意識不明、小学生4人を含む15人の死亡を確認』というニュースが延々と流れており、大騒ぎになっている。
「さすがギルガメッシュ、結節点の場所分かってたんだ」
「全部ではないがな。気配を辿れば我にかかれば造作もない。して、どうする立香、唯斗よ。どうせあの術式だ、無理矢理に解除すれば、あの報道通りに犠牲者が出るだろう」
『ちょっと待った、魔術師だって?てことは、この術式はすでに魔術協会に感知されているのか…そして、神秘の秘匿が侵されると判断した魔術協会は、東京で多くの犠牲者を出してでもこれを止めるつもりだ』
「……てか、犠牲者を出さないようにしよう、なんて殊勝なこと考えるヤツらじゃねぇ。特に貴族主義の連中は白人の金持ちが多い、アジアの都市で人がどれだけ死のうが気にしないぞ」
反吐が出るような話だが、それが事実だ。ここにきて、唐突に時間との勝負になるとは。
「…よし、みんな。今後の方針だけど、急いでそれぞれの結節点に向かおう。現場に魔術師がいれば止める、話し合いで駄目なら峰打ちで無力化。それから術式の解除。これを急いで12回繰り返す」
『いや、基幹術式の結節点は解除できないだろうから、8カ所だ。基幹術式は術者を直接叩きたいけど、とりあえず後。あれは一気に全体を解除しなきゃならない代物だからね。そして、解除する順番としては、まずは外側の拡張術式。それを解除しないと内側の拡張術式を弄れない』
ダ・ヴィンチが詳細な解析をしてくれたおかげで、このあとすぐ取る行動は明確になった。
唯斗は地図を示す。
「一度に解除できるのは、マーリンとメディアそれぞれで二カ所までだ。残る一カ所は魔術師による解除を牽制する必要がある。エミヤが吉祥寺にいるから、エミヤは荻窪で魔術師を抑えてもらおう。立香は北と東担当、俺は西と南を担当する。一気に二重の拡張術式を消却する」
「了解!すぐ行こう!」
もはや電車を使ってなどいられないため、全員、ホテルを出てからは霊体化と迷彩術式を駆使して市街地を跳躍しながら進む形になる。
唯斗もマーリンの迷彩術式によってオジマンディアスに担がれながら、まずは荻窪を目指した。念話でエミヤに状況を説明するのも忘れていない。
ここからは時間との勝負だ。