愛しき過去にさよならを−13


もし魔術師たちがすでに内側の術式に待機していた場合、外側を唯斗たちが解除したことですぐに内側の解除も行われてしまう可能性があったため、そのあたりも踏まえて展開しなければならない。

恐らく立香は今頃、メディアとランサーとともに赤羽に向かいつつ、英雄王には両国へ向かわせているだろう。すでに破られた平井駅の内側の結節点であり、そこで魔術師を駆逐する。
メディアとランサーは立香を守りながら、赤羽と隣の東十条をほぼ同時に解除する。まず赤羽の魔術師を掃討してから、ランサーを先に東十条駅に向かわせ、その間に赤羽の結節点を解除するという流れだ。解除後、ランサーと合流して東十条駅も解除して、続いてギルガメッシュのいる両国へ向かう。

一方、唯斗は新宿から西の荻窪へと向かっている。オジマンディアスの腕に抱かれながら、飛ぶように中野を過ぎていくところだ。ビルの屋上を足場にしながら、何度も跳躍を繰り返して進んでいく。

南の結節点である蒲田は非常に離れているため、単独行動が可能なアーサーを蒲田に派遣して魔術師を牽制。唯斗たちはまず荻窪を解除してからエミヤを高円寺に配置して守らせ、その間に蒲田へと移動してこれを解除、立香たちはその頃には赤羽でのミッションを終えているはずなので、続いて隣駅の大森で内側の拡張術式の結節点を解除し、再び高円寺に戻ってこれを解除する、という流れである。

オジマンディアスに担がせるなどさすがに恐縮してしまったが、唯斗に対してオジマンディアスは「よかろう」とだけ言って、姫抱きにして中野の上空を飛んでいる。
後ろをマーリンも着いてきているが、まさかオジマンディアスにこうして抱き上げられるとは思わなかった。
ちなみに、さすがにオジマンディアスの船メセケテットを出現させると、マーリンの迷彩術式が及ばないため、この手法をとっている。


「ふははは!どうだ唯斗よ、ファラオの腕の乗り心地は!!」

「恐れ多すぎて失神しそう」

「なら歯を食いしばれ!一気に飛ぶ故な!!」

「へっ、」


オジマンディアスがそう言った直後、阿佐ヶ谷の百貨店の屋上を思い切り蹴り、秋晴れの青空の下、空中に思い切り躍り出る。衝撃で百貨店からは警報音が鳴り響いていた。
高く飛び上がり、そして次の荻窪駅前に向けて降下を開始する。内臓が置いて行かれる感覚に、唯斗は思わずオジマンディアスの白いマント越しに肩にしがみついた。


「して唯斗よ!!」

「!?」


歯を食いしばって声が出ない唯斗に、オジマンディアスは楽しげに問いかける。


「着地点はいずこにしようなぁ!!」

「……はぁ!?!?」


オジマンディアスは、着地点を定めないまま跳躍したらしい。
慌てて唯斗は眼下の街並みを見渡した。目立つ大きなビルはすでに高さが足りない。


「っ、あの建物の上に緑があるとこ!」

「うむ!」


オジマンディアスは鷹揚に頷くと、駅前北側のショッピングセンターの屋上部分、公園のようになった場所へと目的を定めた。
平日の正午ということもあってさほど人は多くない。迷彩術式もあるため、遠慮なくオジマンディアスは人から離れた緑地に降り立った。

衝撃で風がいくらか起きたが、誰も気づいた様子はない。
一瞬だけ遅れてマーリンも隣に着地した。


「まったく、無茶をするね。さぁ、敵性反応は前方の高架下付近だ」


マーリンが指さした方向には、環八を中央総武線の高架が跨ぐ場所があった。
ショッピングセンターの屋上から飛び降りて道路に着地すると、三人で西へと走り出す。走りながら、唯斗は念話を行った。


(エミヤ、聞こえるか)

(あぁ。今、環八のすぐ横にある寺院の墓地にいる。魔術師と戦闘中だ)

(了解、今着いたからすぐ行く)

「この先の墓地だ、急ごう」


唯斗は足に強化をかけて、二人を先導して走る。
線路沿いに出ると、すぐ目の前に四車線の大通りが見えた。それを直前で跳躍し、ひっきりなしに車が通り過ぎる大通りを飛びすぎて、反対側に広がる墓地に着地した。

パスを頼りに園内を歩いて行くと、すぐに戦闘音が聞こえた。白昼の駅前で魔術の戦闘など、と思ったが、どうやら墓地全体に人目を避ける結界が展開されていた。

墓石の間を進んでいくと、見慣れた赤い霊衣が見える。墓石の後ろに隠れて様子を窺っているエミヤに、小声で呼びかけた。


「エミヤ、」

「来たか、マスター。敵性反応はこの先の木陰だ」

「了解。マーリンは結節点の解除を始めててくれ。エミヤとオジマンディアスは霊体化して接近、会敵。あまり墓地は荒らしたくない」

「承知した」


エミヤはすぐに霊体化していく。オジマンディアスも霊体化して敵へと向かった。
マーリンは「ちょっと待ってね」と言って、環八が線路の下を通るアンダーパスへと歩いて行った。

すぐに、前方で小さな爆発音がして、光線が立ち上がり木の梢が半分ほど蒸発し、その衝撃で墓石がいくつか倒れた。壊れてはおらず、墓そのものも暴かれてはいないようだ。
やはりサーヴァント相手に魔術師では話にならず、すぐに二人によって倒されたらしい。エミヤが苦戦していたのも、この墓地をなるべく傷つけないようにするためだったのだろう。
二人が戻ってくると、唯斗は急いで二人に迷彩術式をかける。魔術師が倒されたことで、この墓地を囲む結界も消えているからだ。

騒ぎになる前に、唯斗は二人とともに姿を隠して、マーリンがいるアンダーパスの上部、線路の横に沿ってアンダーパスを横切る横道に向かう。


「ちょうどこちらも終わったところだよ、マイロード」

「ありがとな。立香、聞こえるか。荻窪の解除は終わった」

『赤羽ももう少しで終わるよ!』

「了解。よし、じゃあエミヤは引き続き、高円寺でも同じように牽制頼む。オジマンディアス、悪いけどもう一回、今度は蒲田まで結構あるけど頼む」

「よかろう。そこな花の魔術師に任せてしまえば、途端にセクハラするであろうからな」


エミヤ、オジマンディアスに続けて指示すると、オジマンディアスの言葉にマーリンはニッコリとする。


「さすがファラオ、お見通しってわけか。君も千里眼持ちかな?」

「然様なもの余には不要。未来など視ずとも己ですべて拓くまで」


そう言って、オジマンディアスはひょいっと唯斗を抱え上げた。急なことに驚いていると、至近距離で見上げる精悍な顔がニヤリとする。


「…故に。未来を己でつかみ取って見せた者たちに、余は助力するのだ」


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