悪性隔絶魔境新宿II−5
アルトリアたちの戦闘音が止んだあたりで、二人は先にねぐらへと戻ってきた。すぐにアルトリアとジャンヌも戻ってきて、先に帰っている二人にジト目を向ける。
「ちょっとアンタ、なんで先に戻ってきてんのよ」
「薄情だな異世界の私よ」
「おや、それを言うなら二人がかりで藤丸君を助けられなかったことに自責の念を感じて欲しいところだが…本題はそこではない。こうなると分かっていたであろう人物を問いただす方が先だ」
アーサーは一見穏やかに微笑んだが、目が笑っていない。あえて唯斗を危険な目に遭わせるように仕向けたアーチャーへの怒りはまだ健在なようだ。
それを見て納得したアルトリアたちとともに地下に入ると、二人は早速アーチャーに殴る蹴るの暴行を加え始めた。
酔いは覚めているようで、二人の暴行を甘んじて受けている。
傍目に見ればいたいけな老人に暴力を振るう若い女二人というひどい絵面だ。
一通り二人が満足したところで、アーサーもアーチャーの前に立って思い切り金属の踵を床に叩き付けた。鋭い音が響き、アーチャーはびくりとする。
「さて、二人を危険な目に遭わせることを織り込み済みでアサシンを招いたんだ、当然、この状況を改善できるんだろうね?」
「も、もちろんだとも!私の計算では、銃身に連れ去られたマスター君は、私の依頼、というか私がそうなるように仕向けた人物が助け出してくれるはずサ!というか、本当は連れ去られるのはマスター君だけで、まさかミスター・雨宮が先行するとは思ってなかったんだけどネ」
「余計な口を利いていいと誰が言った?」
アーサーはついに王様モードになって圧をかける。普段の温厚さからは想像できない。
唯斗は潮時かとアーサーの腕を後ろから掴む。
「アーサー、その辺にしといてやれ。詳しいことは立香が戻ってきてからだ」
「……マスターの優しさに感謝するといい」
ヒンと情けない声で頷くアーチャーを放っておいて、アーサーは唯斗の肩を抱いて壁際の定位置へ向かう。
アルトリアとジャンヌは地上で立香の帰りを待つことにしたらしく、階段を上がっていった。
唯斗はいつも通り、アーサーの膝の間に腰を下ろしながら、めそめそと丸椅子に座るアラフィフに声をかける。
「なぁ、あんた、自分の正体に気づいてるんじゃないのか。そうじゃなきゃ、ここまでリスキーな作戦思いつかない、というか手配できないだろ」
「おや、では君も検討はついているのかな?」
からりと切り替えて返す男にため息をつきたくなりながら、唯斗は通信もないこの状況を好機と捉え、確認してみることにした。
「…ジェームズ・モリアーティ、とか?」
「正解だよ、恐らくネ。あまり君と私は行動を共にしていない、大方、服装で年代を特定した上で、悪性が高く幻霊として召喚され得る知名度の高い作品のキャラクターというように考察したんだろう」
「この状況だから、あんま自信なかったんだけどな」
やはりアーチャーの正体はモリアーティだったようだ。
シャーロック・ホームズシリーズにおいて、数学者としての高名な肩書きの裏で犯罪組織のリーダーをしていた稀代の大悪党。
「ハサンのことに気づいて先回りするわけだ。君は随分と頭が良いとみた」
「どうだろうな。それにしても、モリアーティに善性とかあったんだな」
「記憶は依然ない私だが、それでも私ですらその点は疑問に思うよ」
アーチャー、もといモリアーティは自分でそう語った。
幻霊ではあくまでキャラクターに過ぎない。描かれていない部分は存在しないのと同じである。だが、だからと言ってこのモリアーティを今から敵視するつもりはなかった。
「何度も言うけど、俺は立香を信じる。あんたが何であろうとな」
「あぁ、それでいい。君たちはとても良いバディだよ」