愛しき過去にさよならを−18


結界に突入すると、屋敷の惨状がすぐに目に入った。

和風の邸宅は、大きな日本庭園と本邸、現代建築の一軒家である別邸、いくつかの離れや倉庫などの建物などで構成されているが、そのほとんどの建物が破壊されていた。
本邸からは火の手が上がっており、木造の建物にどんどん燃え広がっている。

荒らされた庭園で戦っているのは、バシルと、10人以上の魔術師だった。

結界に入るなり霊体化を解いたサーヴァントたちは、一斉に魔術師たちに攻撃を畳みかけた。

立香を下ろしてから、ランサーは近くの魔術師を槍で一突きにし、ギルガメッシュは大量の宝具で一気に3人を仕留める。エミヤも剣を矢として放って一人を攻撃し、アーサーとオジマンディアスも3人ずつ戦闘を開始する。

魔術師たちは驚きつつも、サーヴァント相手に敵うはずもなく、次々と庭園に血を流して倒れていく。

戦っていたバシルは呆然とその様子を眺めていた。

すでにメディアとマーリンは聖杯を探しに屋敷に入っているようで、この場にはいない。

魔術師が全員倒れたところで、いよいよ本題となる。
唯斗はバシルに面と向かい、息を吸った。


「…この街に巨大な魔術式を展開しているのはあんただな」

「君は…やはりマスターか。それにしてもこんなにもたくさんのサーヴァントをいったいどうやって…」

「術式さえ解除してくれんなら、あんたたちに危害を加える気はない」


唯斗の言葉に、バシルは逡巡しつつも、すぐに構えた。戦うつもりらしい。


「…なんであれ、それは応じられないな。俺は魔術協会を滅ぼす。そして魔術そのものを陳腐化させる。早くしなければ、俺は美紀子や一樹のことも確認する必要がある」

「っ、二人はどこに」

「家だ。二人がいた場所は崩れていない、結界で守っているがそれも時間の問題だ」


立香に目配せすると、すぐに立香も頷いた。メディアに念話で二人を守るよう伝えてくれるだろう。
唯斗は引き続きバシルにことのあらましを詰問する。


「魔術協会を滅ぼして魔術を陳腐化しようなんざ、一介の魔術師ができることじゃない。東京の人々の命900万人分を使えばエネルギーは確かに足りるかもしれないけど、何をするつもりだ」

「俺は召喚術の名家のサラブレッド。そして雨宮はもともと陰陽道の家系。おあつらえ向きに、山手線と中央線が構成する模様は太極図に一致する。ならば話は簡単だ。召喚するんだよ、ロンドンに、東京をな」

「…は……?」


バシルの言葉に唯斗はポカンとする。立香だけでなく、聞いていたサーヴァントたちもどういうことかと怪訝にした。
しかしすぐに、唯斗は気づいた。この左手の刻印がそうだ。


「まさか、環八の内側をまるごとロンドンに転移させるつもりか!?」

「あぁ。拡張術式が解除されてしまったから山手線の内側だけになるが、それでも効果は最低限発揮されるだろう。山手線の内側の東京が転移し、ロンドン中心部に出現して、街を押しつぶす。地下の魔術協会本部といくつかのカレッジも潰せるだろう。そして何より、東京都心がロンドン都心に出現するという事象を世界が目にすることで、神秘は著しく後退する。そうすれば、魔術体系は根底から崩壊する」

『なっ、まるでアガルタの再現だ!そんなことがたった一人の魔術師に可能なのか!?』


ダ・ヴィンチの驚愕する声が通信から聞こえてくる。確かに一人では普通できない。しかし、聖杯があれば話は別だ。さらに言えば、東京にはもともと、山手線と中央線によって、巨大な太極図のような形が作れる。太極図は陰陽道、あるいはその元となった道教で用いられる、勾玉が重なったような模様だ。
元から存在する鉄道網、そして莫大な魔力リソース。


「…900万人の命を聖杯にくべて、東京の街を転移させることは、十分可能だ。それだけの術式を、あいつは持ってる。それより、なんでそこまでして魔術を否定するんだ?」


突拍子もない話だが、聖杯というのはそれだけの力を持ったリソースだ。術式は一流の召喚術の家系なら生み出せる。バシルは唯斗の世界では、一応アーサーを巻き込んで現界させた実績があるのだ。


「俺は時計塔を抜け出した。美紀子と普通の暮らしがしたかった。でも親族がそれを許さなかった。グロスヴァレも雨宮もな。だから、そいつらを全員殺した。それは事件として報道され、魔術協会は神秘の秘匿が害されるとして俺を危険視した。その刺客たちが家族にまで危害を加える可能性があったから、俺は先に手を打つことにした。それがこの計画だ。邪魔をするなら、たとえサーヴァントであっても俺は戦ってやる」


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