禁忌降臨庭園セイレムI−5


特異点発生から72時間、ついにレイシフトが敢行された。
唯斗の予想通り、国連と魔術協会はこれを最後のレイシフトとして地下炉心の停止を命じたため、残る魔力では往復1回のレイシフトしかできないことになっている。

そしてレイシフト座標は同軸の地点であり、ミストと呼称されることになった黒い霧の中となる。この霧の中には、5万人のセイレム市民の代わりに、17世紀後半のセイレムの様子が観測された。
観測できたのは最新の機器ではなく、古い技術で作られたオートマタであり、どうやらこの空間は17世紀以降の技術を一切受け付けないらしい。

本来は現代を観測できないはずのシバが偶然にも明瞭な観測結果をもたらしたことからも、このミストの中にセイレム村が広がっていることは分かっており、レイシフトしてからは現地調査が主な作戦となる。

そこで、カルデアから派遣されるマスターたちは「設定」をつけられることになった。贅沢にも、この設定はシェイクスピアとアンデルセンが構築したものだ。
設定は「旅芸人」であり、各地を流浪するならず者集団として怪しさをある程度許容できるようになっている。

そしてそのメンバーだが、立香のサーヴァントからはマタ・ハリ、ロビンフッド、哪吒、メディアが同行しており、唯斗のサーヴァントとしてはアーサーとサンソンが伴っている。また、マシュも今回は旅一座におけるプロンプターとして同行していた。
道教の神の一人である哪吒はつい最近にダ・ヴィンチの実験の一環として召喚された英霊で、立香が契約しているランサーだ。少年神だが、少女の姿で現界している。この程度のことは、正直日常茶飯事だ。


そうしてレイシフトは無事に成功、想定通り通信はできないため、暗闇の森の中で一同は移動を開始した。
夜目の利くロビンと魔術で視力を上げられる唯斗を先頭に進んでいくが、ロビンは早速ため息をつく。


「しかしこの大人数で徒歩とはね。ダ・ヴィンチ女史も準備が悪い。幌馬車でもあれば様になるんだが」


旅芸人と言うには荷物が少なすぎるのはロビンの言うとおりだ。それに対して、意外にもサンソンが答える。


「君は無駄口が多いな。レイシフトには制約が多い。最低限の道具は持参できたのだから、それでなんとかするしかないだろう」

「ほいほい、俺たちは荷物の少ない旅芸人ですよ。あー、そういや劇団の名前は決めておかないとなぁ。どうする、マスター」

「それ、私も気になっていたわ。あらかじめ決めておくべきよ」


マタ・ハリはこの手の文化に慣れている、彼女が言うなら必要なものだろう。
立香は少し考えてから、案外すぐに答えた。


「んー、じゃあ藤丸一座で」

「はは、藤丸一座ときたか、そりゃあいい」


せめてカルデアの名前でも使えばいいのでは、と思わないでもなかったが、ロビンは楽しげだ。立香も、名前に拘りがあるわけでもないらしい。しかし、真面目なサンソンはむっとした。


「なぜ笑う。そう悪くないだろう。本当に失礼なヤツだな、君は」

「おや、ウィットに富んだ会話がおわかりでない?学者先生は頭が固くていらっしゃる。でもさぁ、『悪くはない』とか、そっちの方がよっぽど上から目線じゃねぇの?」

「な、僕はそんなつもりでは…しかし、確かに…」


どうやらこの二人は相性が悪いらしい。唯斗も思わずポカンとした。まさかここまで、サンソンが苛立ちを見せるとは思わなかった。
サンソンがアマデウスに向けるものは生理的な嫌悪に近いものだが、ロビンに対するものは、それとはまた異なるものだ。いずれにせよ、あまり喧嘩されていても困る。


「気にしてないよ、サンソン」

「そうだぞ、どう考えてもクソ安直だろ」

「唯斗が一番失礼だからね?」

「申し訳ありません座長」

「なんか腹立つな…」


唯斗にごく軽く肘で攻撃してくる立香に、サンソンは小さく笑う。


「…すみません、その気遣いに甘えさせてもらいます。マスターも」

「…ま、気は抜くなよ」


喧嘩するコミュニケーションも彼らのものだ、好きにしていればいいと思っている。ただ、それが支障をきたすようなら、マスターの出番ということだ。
さすがにそれくらいは、そろそろ唯斗も自分でもできると思えるようになった。


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