禁忌降臨庭園セイレムI−6
そうしてしばらく森の中を歩いているときだった。
「待った。ありゃ焚き火だ」
「え、もうセイレム村?でもまだ森の中だけど…」
ロビンに制止され止まった立香は、辺りの深い森を見て不思議そうにする。
唯斗は視界強化によって前方の明かりを見る。
「…何人か、子供がいる。全員少女だな。こんな夜更けに森の中で火を囲んで、何してんだ…?」
「敵性体じゃないなら近づいてみるかい?」
「そうだな、できるだけ近くに行こう」
アーサーは一応剣を構えていたが、いったんそれを消す。彼女たちが何をしているのか、確かめる必要がある。
息を潜めて全員で森の中を進んでいく。少女たちから10メートルほど離れた木々の間で止まると、立香はメディアを振り返る。
「どう?メディア、何か感じる?」
「…いいえ、ただ、これはまずいわね」
「何かあったのですか?」
マシュも首をかしげると、哪吒が静かに答える。
「その逆。何もない」
「ええ、魔術的な知覚が極端に鈍っている。決定的なのは…」
哪吒の端的な言葉だけでは理解できないが、メディアは同じ感覚を共有していると判断したようで、ロビンやサンソンを見遣る。
「あなたたち、霊体化はできる?」
「…っ、なんだこれは、霊体化できない…!?」
問われて試してみたサンソンだったが、体は霊子になることができず、実体を保っている。こんなことは初めてだ。エーテル体であるサーヴァントが霊体化できないなど、死んでいないアーサーやアルトリア、マーリンなど限られた英霊だけだ。
唯斗は視界にかけている魔術を切り替え、より高度なものとしてサンソンを見つめる。
「…、受肉、じゃないけど…生身の肉体に近い組成になってるな。少なくとも純粋なエーテルじゃない。立香が下総で並行世界の因果に馴染んで、仮初めの肉体を得たようなものに近いな。サーヴァントたちの構成理論がこの世界のものに強制的に置換されてるんだ」
「その通り、君はとても聡いんだな」
「…?ありがとう…?」
メディアは唐突に唯斗を褒めたが、メディアとは初めてでもない、改めて言われることではない。現に、哪吒は別として、一緒に任務にあたったことがある他のサーヴァントたちは普段通りにしている。唯斗がこれくらいのことに思い至るのは自然なことだと思われているようだ。
それに、口調も普段とやや異なる。いったいどうしたのだろう、と思ったところで、ロビンが鋭い声を発した。
「待った、誰だ」
ロビンはすぐにボウガンを構える。その先に、暗闇に紛れるように木陰からこちらを見ているのは、肌も髪も真っ白な少女だった。
サンソンはロビンに声をかける。
「ロビン、弓を下ろせ。少女だ」
「…、こんばんはお嬢さん。ここで何してんだ?」
「…………よそ者」
ぼそりと少女は呟く。怪しまれるわけにはいかない、と唯斗は咄嗟に立香を振り返った。
「座長、フライングでお客様がお見えだ」
「あらあら本当、内緒の演目のお稽古を見られてしまったわね」
マタ・ハリも落ち着いて唯斗の言葉に乗っかり、旅芸人としてのフリを早速こなす。立香も理解して冷静にしている。
サンソンも、少女に微笑んだ。
「アロ、お嬢さん。恥ずかしいところを見られてしまったな」
「あ……う、その訛り……フランス兵……?に、逃げなきゃ…」
「あ、君」
少女はサンソンに怯えた目をしてからすぐに走り出した。サンソンは呼びかけようとしたものの、マタ・ハリは焚き火の方を見てそれを止める。
「待って、焚き火の方の様子がおかしいわ」
警戒を滲ませるマタ・ハリの声に、焚き火の方を見遣ると、少女たちを囲むように野犬たちが囲んでいるのが見えた。野生の獣らしい。唯斗はガンドを討ちそうになったがすんでで堪える。
「魔術は禁止だ、アーサーは風王結界を解除。サンソンと野犬を狩りに行け」
「ロビンもお願い!」
マスター二人の指示で、アーサーとサンソン、ロビンが野犬たちに先行する。
「マタ・ハリとマシュで女の子たちを誘導して!」
「はい、せんぱ…座長!」
マタ・ハリとマシュが少女たちを引き離したところで、魔術要素を一切排して戦っていたサンソンたちも、魔力を籠めて野犬の駆逐を開始する。
本来なら魔力を籠めずとも素の膂力だけで野犬ごとき倒せるのがサーヴァントだ。それにも関わらず、サンソンやロビンはどこか苦戦している。アーサーは比較的いつも通りだが、哪吒ですらやりづらそうだった。
一通り倒したところで、唯斗はサンソンたちに合流する。
「もしかして、仮の受肉が影響してるか?」
「ええ。これではまるで人間の肉体のようです」
やはり、仮初めの受肉状態であることが影響しているらしい。サーヴァントとしての性能が半分近く制約されているように見受けられた。
唯斗はメディアに意見を聞いてみることにした。
「メディアはどう思う?戦闘への影響はどれだけ出るか分かるか」
「……戦闘だけで済めばいいけれど」
「…え、」
「それよりも。見られたわ、先ほどのアルビノの娘に、戦っているところを」
欧州が近代に入った一方、植民地はいまだ迷信がひどく蔓延る近世社会であり、その中で魔術を使った戦いを見られるのは非常にまずい。
特に、魔女裁判があったここでは慎重にならなければならない。あまり幸先の良くないスタートだったが、まだ始まったばかり、まずはこの空間における調査拠点を定めるところからだ。