禁忌降臨庭園セイレムI−10


その夜、旅芸人などやって来たことのない敬虔なセイレムの人々を安心させるため、一部の村人たちを呼んで公演を行うことになった。
演目は聖書の有名な一節、「ソロモンとシバの女王」であり、ソロモン王をロビン、シバの女王をマタ・ハリ、その部下としてサンソンが出演する。立香はマシュの指示をロビンたちに小声で伝える役目かつモブの大臣役である。
もちろん、唯斗は裏方だ。哪吒とともに場面転換の手伝いをする。ちなみにアーサーが出てこないのは、顔が良すぎて何をやっても目立ってしまうからだ。

マシュがすべての台詞などを暗記していたこともあって、途中躓きかけた部分もあったものの、なんとかなった形だ。

しかしその後、ボストンから派遣されたという上級判事、マシュー・ホプキンスがやってきてティテュバを連行してしまった。
ホプキンスの名前に、唯斗はやはり漠然とした不安を感じたものの、それがどういうものなのか理解することができなかった。

そして翌朝、セイレムでは二日目の朝。立香はティテュバの様子を見に行きつつ、ティテュバ連行のきっかけとなった村のある少女が持っていた人形を確認しに、カーターとともにホプキンスの滞在する屋敷へと向かった。ロビンも同行している。
一方、唯斗はアーサーとともに、サンソンの案内で郊外の家へと向かうことにした。サンソンとマタ・ハリが出会ったあのアルビノ少女、ラヴィニア・ウェイトリーが魔術師の家である可能性があるためだ。

サンソンたちでは分からなかったため、改めて唯斗の目で確認して欲しいという話だった。

集落から離れた森の近く、ウェイトリー家にやってきた唯斗たち3人は、木陰から姿を潜めて、ボロボロの粗末な建物を見て顔をしかめる。
村ではかなり迫害されているという話だが、物々しい様子や地面に飛び交うハエを見れば、それも仕方ないように思えてしまう。


「どうでしょう、マスター」

「間違いない、これは魔術師の家だ。地下室が工房になってるな」

「魔術師としての力は強そうかい?」


アーサーに尋ねられるが、唯斗は首を横に振る。


「いや、こんな杜撰な工房だ、大した家じゃない。できることも限られてるだろ。このセイレムで起きてることを実行するような実力はないだろうな」

「そうですか…」


どこかサンソンはホッとしたようにしている。それを意外に思った唯斗はサンソンを見上げた。


「随分、ラヴィニアを気にかけてるんだな」

「そ、ういうわけでは…」

「別にいいよ、そういうこともあるだろ。何かあったときに決断するのはマスターである俺だ。大事にしたいことがあるなら、それを大事にしてていい」


もしウェイトリー家を排除しなければならなくなったとしても、それを決断し責任を取るのはマスターである唯斗だ。彼女らを気にかけていたいのなら、それでいい。


「マスター……」

「とはいえ、マスターを傷つけるようなことがあれば私が許さないからね、サンソン殿」

「…分かっているとも」


アーサーも唯斗の意図を理解して、それを否定することこそなかったものの、アーサー自身も譲れないこととしてそう述べた。アーサーが唯斗のために怒りを示してくれることは、アーサーの優しさというより、アーサーがそうしないと気が済まないということでもあると、唯斗は関係性が深まる中で理解できた。
そのため、それを窘めるようなことはしない。

とりあえずウェイトリー家の調査はそこまでにしておき、唯斗たちはカーター家に戻る。
そこには立香たちも戻っていた。随分とやつれている。


「おかえり立香、どうした?やつれてるけど」

「あー…うん、結構ゴリゴリ精神力削られた」

「そりゃあのホプキンスだし…な……あれ、俺、今…」


立香が疲弊するのも無理はない、と思った瞬間、自分がそう自然に言ったことに気づいた。
思わず呆然とする唯斗に、見ていたメディアが微笑んだ。


「工房化が効いたようね。この屋敷は私の魔術で工房化したの。この世界の因果から一時的に避難できるわ」

「ホプキンス…僕も思い出しました。それに、霊体化もできるようです」


姿を消していたサンソンが再び実体化しながら、唯斗と同じ人物を思い出したらしい。さらに、メディアは全員に問いかける。


「それに、ティテュバの特徴を言える?あなたたち」

「あれ…そういえば、なんだか思い出せないような気がします…」

「この世界が、私たちの認識を阻害しているの。まだ読めていない因果の流れがあるから万全ではないけれど、少しはマシになったはずよ」


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