禁忌降臨庭園セイレムI−14
メディアのことで話をつけたところで、カーターが帰宅した。
看守たちからも話を聞いて、恐らくティテュバには拷問が行われたのだろう、ということだった。その結果ティテュバは自白をして、執行が早まった。
プロテスタント教会の法解釈では、自白した方が罪が軽くなるというリニエンシーの考え方があり、拷問もイングランドでは禁止されているが新大陸では残っていたため、こんな出来事になってしまったようだ。
そこに突然、敵襲があった。
敵性体の接近を感知したロビンと哪吒によって、カーターを屋敷に残して全員で村の外に出る。先住民かどうかは分からないが、工房化され守られている屋敷はともかく、この先の村では犠牲者が出る可能性がある。
今のうちに迎撃しようと屋敷の前の通りに出たが、そこで待ち構えていたのは、歩く遺体だった。
「あれは、絞首台にいた囚人たち…!」
マタ・ハリが目を見張って言った通り、この死体は絞首台にいた者たちだ。土に汚れ黒ずんだ肌は不自然に白く、あちこちが不自然に膨張している。不格好な姿はおぞましく、リビングデッドとは異なる様相だった。
食屍鬼、アラビア半島の死体を喰らう鬼だ。
「っ、あれは動く死体じゃない、グールだ。死体とは別の怪物、悪魔、鬼の類い。死体を喰らう怪物を言う。人間がグールになることもあるから、今回は後者だろ。グールは増殖する、完全に仕留めるぞ」
「え…りょ、了解」
立香は新しいタイプのエネミーに少しだけ動揺したが、人間ではないと分かって僅かに気を楽にしていた。絞首台にいた者たちだったため、人間なのかと心配していたのだろう。
アーサーとサンソン、哪吒、ロビンですぐに戦闘に入り、マタ・ハリは周囲の索敵、非戦闘員のマシュと立香、唯斗は後方で待機する。
哪吒の槍が二人をまとめて薙ぎ払い、サンソンの大剣が首を跳ね飛ばす。アーサーはもう二人を見えない剣で切りつけて、地面に倒れる際に突き刺して光線を発出する。内側から焼けただれ、一瞬で消え失せた。
最後に残ったグールは、サンソンに手を上げる。
「あ…ア…真なる神……は…我ガ…心…のうちに…アリ…」
助けを求めるようなものだったが、すぐに霧散した。これで通りは一掃されたが、サンソンは剣を消して、声を震わせる。
「死体が…神の名を口にするとは…今のは死体だった、死体だったはずだ…!湿った土と同じ冷たい血の粘り、硬直しつつある筋肉の固さ…!しかし彼らは意識があった、まさか僕らは、生者を、」
唯斗は慌ててサンソンのもとへ駆け寄ると、その正面に立った。そして、サンソンの端正な顔に手を寄せて、頬を撫でる。優しくこちらに視線を向けさせて、自分と目を合わせた。
「落ち着けサンソン、こっち見ろ」
「…、マスター…」
「あれは死体を喰らう怪物、グール。イスラームの伝承でありアラビア半島に古くから伝わる悪魔、アル・グールという。死体そのものではないから、囚人たちの姿だったことは謎だけど、いずれにせよ、グールは人間が変異したものともされる。結局は生きた人間なんかじゃ到底ないわけだ。分かるな?」
「…はい、」
動揺していたサンソンのアクアマリンの瞳は落ち着きを取り戻し、呼吸も整う。
そこに、屋敷の裏手から銃声が聞こえてきた。カーターが応戦しているらしい。どうやら他のグールが裏手へ回り込んでいたようで、すぐにロビンたちが向かった。
「…よし、なら俺たちがすべきことも分かるな」
「…ええ。村を、屋敷を、そしてあなたをお守りします。マスター」
「その通りだ。行くぞ」
落ち着いたサンソンと見守っていたアーサーとともに屋敷の裏手へと走る。サンソンにすれば、非常に心に重しとなる戦いだろう。死刑の死の安らぎを求めた英霊が、死してなお苦しむ者たちを見るなど、あってはならないことだ。