禁忌降臨庭園セイレムI−15
その晩はなんとかグールを撃退することができた。
幸い、この地域らしい強い海風によって、ほとんどの戦闘音はかき消されている。
そしてやはり、グールの中にはティテュバの姿もあった。この日処刑された者たちが歩き出した、という事実は変わらない。なぜ彼らがグールになったのかは定かでは無かった。
さらにもう一つ、重大な事実が明らかになった。
それはメディアの正体。なんと、かつてメディアが教えをもらったこともあるギリシア神話の大魔女・キルケーだったのだ。
キルケーはダ・ヴィンチの召喚術式で召喚された英霊だったが、召喚は不完全に終わってしまい、魔力は枯渇しているのにカルデアも信用できない半端な情報しかないという状態となっていた。そこでキルケーは、ちょうどレイシフトが行われると聞いて、メディアを昏睡させて成り代わり、メディアに扮して帯同したというわけだ。
本来はカルデアとの通信を遮断して立香を籠絡、こっそりセイレムを抜け出すつもりだったようだが、唯斗が思ったより早くからセイレムの構造と英霊たちの状況を想定できていたことや、そもそもカルデアとの断絶はキルケーの予想以上だったことなどもあって、姿を現すことにしたらしい。
また、決め手となったのは、サーヴァントだったというティテュバの死だった。ティテュバはどうやらサーヴァントであったらしく、真名こそ分からないが、この状況の悪さに隠れている方がリスクだと判断したそうだ。
そうして、魔神柱の手先でないことを少しでも証明するために立香と仮契約を結んでいる。
それが昨晩の出来事だったが、翌朝、公会堂でグールの襲撃を受けた村人たちで意見交換が行われ、セイレムの警備態勢は一層強化されることになった。
加えて、昼に子供向けの演目をするよう牧師に依頼を受けている。
公会堂からカーター家に戻り、演目の打ち合わせがてら、カルデアメンバーだけでの昨晩の検証を行うことができたのは、正午になってからだった。
ダイニングでロビンがいつも通り切り出す。
「さて、んじゃまぁ昨晩の襲撃についてですね」
「確か、ウェイトリー家の人に見られたんだっけ」
立香が思い出しながら言うと、ロビンは頷く。
昨日の戦闘では、森の暗闇に紛れてアブサラム・ウェイトリーという老人に一部始終を見られてしまっていた。
魔術師の家長に見られたとあってはかなりまずい。それに、グール襲撃に合わせて彼がカーター家にいたことも怪しかった。
「怪しさはマックスだが…そのあたりどうよ、キルケー先生」
「ふむ、錬金術師が死体蘇生者としての側面を持つのは不可解だとは思わない」
ロビンに話を振られたキルケーは、テーブルについて麦粥を食べている。ギリシアの伝承に語られる、麦とミントのペーストに近い状態の粥キュケオーンだ。
「錬金術は生命と自然の関わりを探求する学問、黄金はその副産物だ。焦点となるのは、ウェイトリー家が魔神柱の手先かどうか。そしてあのグールについてだろう。昨夜は運良く撃退できたが、私の防衛陣地を持ってしても察知できなかったのは不可解だ」
「グールは死体を食べる鬼であって死体じゃない。人間が変性することでグール化することもあるけど…グールなのは間違いない、でもグールが発生した経緯は謎だな。魔女裁判の再現が魔神柱の目的だとすれば、こんなイレギュラーを引き起こす理由もない。カーター氏がグールを知っていたことも解せないし…これ以上は手詰まりだ」
さすがにこれ以上の憶測は危険だ。見えるものも見えなくさせる。キルケーはそんな唯斗を見て微笑んだ。
「君は聡いな。キュケオーン食べるかい?」
「…、後でちょっと食べてみたいかも」
「本当か!!任せろすぐ用意してやろう!!」