禁忌降臨庭園セイレムI−16
午後になって、村の子供たちを公会堂に集めて公演を行うことになった。哪吒を主役とする西遊記の演劇だ。
いつも通り唯斗は舞台転換の裏方を予定していたが、サンソンが舞台袖で話しかけてくる。
「マスター、よろしいですか」
「どうした?」
「…どうやらウェイトリー家で何かあったようです。できるなら様子を見に行きたいのですが……」
「えっ、サンソンさんまたですか!?困りますが…で、でも…」
傍で聞いていたマシュは困ったようにするが、立香がその肩を叩く。
「大丈夫だよ、マシュなら台詞覚えてるでしょ?今日は子供がお客さんだし、アドリブとかでもなんとかなるよ。不安がってる子供たちの息抜きなんだから、俺たちも肩の力抜いていかないと」
「…それもそうですね。では、私が舞台に上がります」
「ありがとな、マシュ。なら俺とサンソンで向かう。アーサーはこの場を頼んだ」
「…分かった。サンソン殿、くれぐれもマスターをよろしくね」
「もちろんだとも」
立香が執り成して、マシュがサンソンの代打を務めることになる。代わりに、唯斗とサンソンでウェイトリー家へと向かうことにした。
サンソンが気になるというからには、アブサラム・ウェイトリーが収監されるなどする可能性がある。
そうして公会堂を出た二人は、村の外れにあるウェイトリー家へと向かった。道中、サンソンはラヴィニアのことを話してくれた。
「ラヴィニアはどうやら、家を追い出されたようです。理由は分かりませんが、アブサラム・ウェイトリーはこうなることを見越していたのかもしれません」
「カーターたちから疑われることをか。それにしても、あれだけのグールを動かせるほどの魔術師なのか、あいつは…」
「そうは見えませんか?」
「俺の目からは、そんな大層な魔術師には見えなかった」
唯斗が言うと、やはりサンソンは少し安堵したようにしている。やはりサンソンは、ラヴィニアを一層気にかけているようだった。
やがてウェイトリー家が見えてきたところで、家の前に数人が集まっているのが見えた。
ホプキンスとその護衛、そしてカーターとアブサラム・ウェイトリーだ。気づいた二人は慌てて走り、カーターたちのところに駆け寄る。
「ホプキンス氏!そのご老人をどちらへ連れて行こうとしているのですか?」
「貴様らは…藤丸一座の」
「シャルル=アンリ・サンソンと申します。もう一度問います。その方を、今まさに牢獄へと連行しようとしているのですか。判事、あなたはマサチューセッツ州総督の代理であって、王ではないはずだ」
「サンソン、もう少し言葉を選べ」
唯斗はサンソンを制する。それを見て、ホプキンスは意外そうに唯斗を見た。
「貴様は一座の中でもあまり見ない顔だな。アジアと欧州の混ざり物か、奇特な者もいたものだ。そこのフランス男のように何か言いたいことでも?」
「それでは一つ。このようなことを閣下にお話するのは恐縮ですが、法には自然法と実定法とがあり、自然法に反する実定法は原則として失効するものです。そして自然法の法源とは理性や神の御心であり、理性を神の与えたもうたものと捉えるならば、神意以外に自然法の有り様を変えることはできない。この場における自然本性を考えたとき、ウェイトリー氏を裁判にもかけずに強制連行するには相応の手順が必要だ。なぜならウェイトリー氏が直接昨晩のことに関わったという物的証拠はないのですから」
この時代、ちょうど国際法の父たるグロティウスが、自然法の観点から国際法の近代的な体系化を図っているところだった。自然法とは、理性によって導かれる倫理的な法であり、神が絶対的だった時代には神の意そのものでもあった。
欧州において神学と法学が同等のものとして学問の最上位に置かれているのは、こうした背景がある。