禁忌降臨庭園セイレムI−17
弁護士でもあったホプキンスは当然理解しており、言葉に窮する。ホプキンスが好き放題できたのは、被害者が基本的に自白をしたり、イカサマな小物によって物的証拠をねつ造したりしたからだ。
そもそも、ホプキンスは弁護士としてうまくいかなかったから魔女狩り将軍になったのだ。
押し黙るホプキンスに、カーターが口を開いた。
「…君たち、言いたいことは分かる。だが、脅威は明白だ。彼の黒魔術がグールによる襲撃を招いた。我々はすぐに行動を起こさなければならない」
それにはサンソンが食い下がる。
「カーター氏、あなたがそれを言うのですか。グールの情報を村に提示したのはあなたご自身だ。あなたは自ら権威を振りかざしはしないと思っていた。どうか失望させないでください。マスターの言うとおり、裁判を、セイレムの人々を招いて正当な裁判を開くべきです!そうではありませんか、ホプキンス判事!」
「…若造どもめ。自分に酔いしれるのもいい加減にしろ」
しかしホプキンスは、冷静さを取り戻してこちらを睨み付けた。ハットの下からこちらを見る眼光は鋭い。
「貴様らには何も見えておらん。この村に蔓延しようとしている毒を。四肢をただれ腐らせる膿を。冗長な裁判では誰も救えん。深刻な事態を、悪魔が呼び寄せる罪を村から取り除かねばならん」
「いいえ閣下!閣下が裁く者ならば!なおのこと人々の理性を信頼するべきです。彼らは魔女ではない。誰よりも魔女を憎む人々です。人々の心に、偽りなる悪魔を顕現させてはならない!」
「…むぅ……」
意外にもホプキンスは、そんなサンソンの言葉にまたしても押し黙った。猜疑心が魔女を生む、という言葉を、どうやらホプキンスは理解している。彼はそれを利用してイングランドで300人を処刑させたはずだが、どうにもセイレムで同じ事をしようとしているようにも見えなかった。
いったい何を考えているのか、と思っていると、少女の呆然とした声が響く。
「伯父様…何をなさっているの…?」
「っ、アビゲイル…」
なんと、アビゲイルとラヴィニアの二人が、公会堂からここまで来てしまっていた。ラヴィニアにも何かおかしいと思ったのだろう、演劇を見るのをやめて、アビゲイルがついてきたようだ。
カーターはアビゲイルから視線をそらす。
「…あまり見せたい光景ではなかったのだが。ウェイトリー家は異端だ、このセイレムに存在してはならない」
「そ、そんな、なんでそんなことを言うの…?」
子供たちにカーターやサンソン、唯斗が意識を向けている間に、警官たちはアブサラムを馬車の荷台に乗せる。ラヴィニアは不安そうにアブサラムを見上げた。
「あ……あ………おじいさま……」
「ラヴィニアよ、お前はウェイトリーだ。栄光なる神の加護がお前にある」
それを最後に、アブサラムは荷台に乗せられ、警官たちが馬に乗る。カーターはアビゲイルの肩を抱こうとしたが、アビゲイルは拒絶して離れた。その悲壮な顔と、ラヴィニアの絶望的な表情に、サンソンは唇を噛みしめていた。
「こんなことは…あってはならない……たとえ、過去の幻影の中であろうと…!!」
「ふっ、シャルル=アンリ・サンソン。貴様はただ口の立つだけの役者ではないな。あとそこの貴様、名前はなんという」
ホプキンスは別の上等な馬にまたがり、こちらを見下ろした。小馬鹿にしたように見下す視線だ。
「…唯斗・グロスヴァレ」
「グロスヴァレだな。サンソンはマスターと呼んでいたが…まぁいい。お前たちには興味があるが、詮索は後だ。芸人風情が法を語る不遜はあれど、私個人への非礼はなかった。しかしサンソン、貴様の不敬はそれだけで罰を科すに匹敵する。だがそれよりも適したことがある」
ホプキンスはニヤリと醜悪な笑みを浮かべた。