禁忌降臨庭園セイレムI−18
「昨夜の嵐で絞首台が壊れた。執行中の事故でなくて幸いだがな。これを修繕する必要があるが、村人たちは不吉がってやりたがらない。看守たちを連れ、丘に絞首台をこしらえよ…いや、一人が良かろう。貴様一人で造り建てるがいい」
その瞬間、唯斗はホプキンスに魔術を使って攻撃をしなかったことが自分でも不思議なほど、殺意を抱いた。慌ててサンソンが唯斗の肩を掴んだほどだ。ただの人間であるホプキンスは殺気を感じることはできず、唯斗の様子に気づいていないが、サンソンは唯斗がついにやってしまったかと思ったようで、かなり青ざめていた。
「っ、マスター…!」
「ッ…、」
長く息をつき、必死に自分を落ち着かせる。カッと頭に血が上ったが、行動に移さなかったのは日頃のアーサーによる制止の賜物だろう。
「……っ、ホプキンス判事。同じ旅一座として俺も同罪です、サンソンとともにその任にあたりましょう」
「そんな、マスター、」
「…フン、勝手にしろ」
最後にそう吐き捨てて、ホプキンスは去って行った。アブサラムを乗せた荷馬車も走っていき、後にはアビゲイルとラヴィニア、カーターと唯斗たちが残される。
「あ、あの、唯斗さん、サンソンさん、」
アビゲイルはこわごわと声をかけてきたが、いまだ怒りを堪え切れていなかった唯斗が振り返ってアビゲイルとカーターを見た瞬間、アビゲイルはびくりと震えた。カーターですら肩を揺らしている。
「…行くぞサンソン」
「……はい」
この村の人間と話すのは反吐が出そうだ。
そう思いつつ、ウェイトリー家から北の丘へとサンソンとともに向かう。
昨晩も来たここは、確かに昨晩の強い風によって処刑台が壊れている。サンソンとともにこれを修繕するとなると、誰の目があるか分からないことから、再利用できない木材は別の木を切り倒すところからになるだろう。
とりあえず、使える木材とそうでない木材とを選り分けるため、サンソンとともに絞首台の瓦礫に手を伸ばすが、サンソンとともに座って木材を拾っていると、自然と視界が霞んだ。
ぼやける視界をクリアにしようと、礼装で目元を拭う。
「…すみません、マスター」
「なんでサンソンが謝るんだ」
「…、」
サンソンも言いよどむ。唯斗の心情を理解しているからだろう。
「…サンソンに、よりにもよってあなたに、こんな、処刑台を作らせるなんて、自分の無力さに腹が立つ」
悔しさに涙が滲んだのはこれが初めてではない。第五特異点がそうだった。しかし、あのときよりもよっぽど、マスターとして、自分の無力さに忸怩たる思いに駆られた。
「…ッ、くそ、悔しい、なんで、なんでサンソンにこんな…!」
「…マスター」
サンソンは隣にしゃがむと、そっと唯斗の肩を抱いた。唯斗を隠すように、黒いコートで包まれるように抱かれ、唯斗はサンソンの白いシャツに顔を寄せる。
「ありがとうございます、マスター。昨晩も、今も。あなたは僕の前で、僕を導いてくれる。あなたが示す正道が、僕の剣を正しいものにしてくれる。それにどれだけ救われているか。生前からの思いすらすべて、あなたとの2年間で晴らされるようです」
「そんな、俺はそんな、優れた人間じゃ…」
「優れているかどうかではありません。君が君でいてくれるから、僕は君の剣で在れて良かった。あなたのサーヴァントでいられて良かった」
ぎゅっとシャツを掴むと、宥めるように背中を撫でてくれる。この悔しさを絶対忘れない、唯斗はそう決意した。