禁忌降臨庭園セイレムI−19
夜、ラヴィニアを除くすべてのウェイトリー家の者たちが処刑された。サンソンと唯斗で建てた絞首台で首をくくられ、死刑に処されている。
それを聞いて、カーター家のダイニングでいつも通り集まったカルデア一同も暗い空気になっていた。
マタ・ハリは沈痛な面持ちでテーブルに肘をつく。
「…カーター氏までがホプキンスの行動に加担するなんて…予想外だったわ…」
「またも絞首刑が執行されるなんて…異常です、あまりにも…」
「このままだと私たちの首に縄がかかるのも時間の問題のようだね」
同じくテーブルについているマシュとキルケーも、事態の深刻さに表情を暗くする。
立っていたロビンは、サンソンをじとりと見遣った。
「お医者さんよ、お前さんがいたってのに止められなかったのか?」
確実に魔女裁判が進展していく異常な村の様子に、重苦しい雰囲気にならざるを得なかったが、そのロビンの言葉には、唯斗は再び燃えるような怒りが頭をもたげた。この怒りは、決して消えることはないのだろう。
血が上った唯斗は、近くに立っていたロビンの胸ぐらを勢いよく掴み上げた。そのまま勢いよく壁にロビンをぶつけ、その衝撃で近くの棚が揺れる。ロビンは抵抗することも避けることもできたはずだが、あえて避けなかった。それすらも頭にくる。
「うぐっ、」
「唯斗さん…!」
「唯斗、」
マシュは怯えたように、立香は驚いたように名前を呼ぶが、唯斗はロビンを睨み付けるだけでそれらには答えなかった。
「お前は、言葉を選ぶこともできねぇのか」
そして低く言った唯斗に、ロビンは両手を挙げて降参のポーズを取る。
「…すみません、唯斗さん。ちょっと言葉が過ぎました」
「マスター、いいんです。事実ですから。それに、これは明白な脅しなのでしょう。これ以上関わるなら容赦しないという、ホプキンスの…」
当のサンソンが怒りを示さないのなら、唯斗がこれ以上怒る道理はない。しかし行き場のない怒りを誤魔化すこともできなくて、唯斗は乱暴にロビンから手を離すと、勝手口へと向かった。
それにはさすがにアーサーが声をかける。
「マスター、どこへ?」
「外に出てる。建物からは離れない」
返答も聞かずに、唯斗は勝手口から屋敷の外に出た。
夜のじとりとした湿った空気の中で、屋敷から数歩離れて立ち止まる。
「はあぁぁ……あーくそ、何やってんだ…」
こうも簡単に感情を制御できなくなることはそうはなかった。怒りという感情がここまで長続きしたこともない。
舌打ちをついて、ロビンに気を遣わせてしまうと、自己嫌悪に陥る。ロビンはなるべく、唯斗に近づかないようにするだろう。そんなロビンの大人っぽいところすら苛立っている自分にさらに苛立った。
ふと、屋敷から離れない、と自分で言っておきながら、少し歩きすぎてしまったことに気づいた。
今晩は海から濃い霧が上ってきており、非常に視界が悪い。すでに屋敷の明かりも見えなくなっていた。
さらに悪いことに、北の丘から濃い瘴気が降りてきていた。海からの霧と合わさって、体に纏わり付くようだ。数メートル先も見えず、自分がどこから歩いてきたのかも分からなくなる。
らしくない失態にもう一度舌打ちをつく。視界を強化すれば簡単に帰れるが、ここまで来てしまったことを怒られる前に戻ろうとした、そのときだった。
「グ…ゥウ……」
「ッ、グール…!」
突然、霧の中から異様に腹の突き出た腐臭を放つ鬼が現れた。グールだ。
咄嗟に避けたものの、気配だけで数体に囲まれていると分かる。この霧、しかも集落からやや離れたカーター家であれば魔術を使っても問題なさそうだ。
ガンドを放とうと構えたところで、唐突に唯斗に迫ろうとしていた1体が黒い剣に吹き飛ばされた。
「マスター、ご無事ですか!」
「っ、サンソン、」
「あまり遠くへ行かないで欲しかったものですが…いえ、なんであれ僕がお守りするだけです」
「悪い、ありがとな」
「当然です、あなたのサーヴァントですから」
サンソンは薄く微笑むと、大剣を構える。すでに立香たちも村に散会し、大量のグールの討伐にあたっているそうだ。
そこにアーサーも現れて、まとめて数体を薙ぎ払った。
「マスター!後でお説教だ!」
「…さすがに甘んじて受ける。今はここをなんとかして、屋敷を守る」
唯斗は息を吸って切り替える。すでに怒りはなりを潜め、頼もしい二人の背中に指示を出すために、頭を巡らせていた。