悪性隔絶魔境新宿II−8


新宿のアサシンを倒すに当たって、ちょうど良い機会があるということでモリアーティが提案したのは、アサシンが開催するパーティーへの参加だった。
どうやらこの新宿には金で危険を遠ざけて生きているセレブがいるらしく、そうした人物たちがアサシンのもとに集まっているそうだ。その言動から、栄華を極める、ということに固執しているという。

アサシンは中華系のサーヴァントのように見えたが、もし幻霊だとすれば、中国文学におけるアサシンなど掃いて捨てるほどいるため、特定は不可能だ。
そしてアサシンは、人前に出る際には必ず変装している。カルデアの観測すら欺く、都市伝説ドッペルゲンガーとの複合幻霊だとすれば、見た目はおろか観測でもアサシンを追うことはできないだろう。

モリアーティはブティックの近くでこちらを振り返りながらニヤリとする。


「だがここでサーヴァント鑑定眼に優れた君たちがいれば話は別だ!サーヴァントがいることに驚く者はいても、君たちの姿に驚く者は少ない。危険といえば危険だが、雨宮君は自衛手段があるし、マスター君には二人の頼もしいサーヴァントが着飾って戦ってくれる。そう、馬子にも衣装というやつさ!」


無言でモリアーティを殴りつけたアルトリアとジャンヌ。
一方で、立香と唯斗は、女物の服しか並んでいないブティックを見て、徐々に嫌な予感を募らせた。


「…なんか不穏な感じがしない?」

「奇遇だな、俺もだ」

「そう、君たちはアサシンに顔が割れている。性別を変えるくらいのことをしないと欺けないだろう?」


速くも復活したモリアーティは背後のブティックを指し示す。


「さあ、ドレスを奪いに行こうじゃないか!なに、変装には自信があるんでネ」

「あまり他人の変装をしたことはないが、問題ないだろう。特にミスター雨宮はミスター藤丸より体格も細い、誤魔化すのは容易だ」


失礼なことを言ったホームズに、唯斗はひくりと口元が引き攣るのを感じた。


「あ、やばい。怒りでガンド漏れそう」

「ガンド漏れるってなに!?」


隣で立香が慌てていると、アーサーが唯斗の前に立った。庇うようにホームズたちの前に出る。


「すまないが、マスターは迷彩魔術で十分だろう」

「おや、騎士王は己の主が女装することに堪えられないかな?」

「恋人の可愛い姿をあまり人に見せたくないという話だ。つまらない話だよ」

「…そうか、確かに実につまらない話だな。しかし我らが英国の大英雄たるあなたに言われては、さしもの大悪党モリアーティも私も強く出ることはできまい」


なんとアーサーは唯斗まで女装させることに拒否を示した。
何かと思えば、理由はそんなことで、唯斗はこの特異点に来てから何度目かも分からない羞恥心が湧き上がるのを感じる。


「ちょ、アーサー、なに言ってんだ任務中に!」

「僕も公私混同はできる限りしないさ。とはいえ、合理的な範疇だろう?君は魔術でどうにでもできるのだから、外的要素をわざわざ取り入れる必要はない」

「えー!ずるい!俺だけ恥ずかしい格好しろってことじゃん!」


それには立香も文句を垂れるが、アルトリアとジャンヌがおもむろに立香の両腕をそれぞれ掴む。


「あんたは魔術師としてはへっぽこなんだから、黙って女装してなさい」

「あぁ、その方がおもしろ…手っ取り早いからな」

「今面白いって言ったよね!?」


立香はそのまま二人に連れられていき、ホームズも後に続く。一方、モリアーティは行く前に唯斗へと声をかけた。


「女装でなくともいいが、変装はするようにネ。髪の色はそうだな…銀髪とかどうかな?瞳の色と揃えれば違和感もあるまい。服装はお任せしてよろしいですかな?騎士王陛下」

「心得ているよ。ドレスコードは?」

「この前奪った招待状ではブラックタイと」

「承知した」


モリアーティは立香の女装に助太刀するためブティックに入っていく。
アーサーは唯斗を連れてメンズ服のフロアへと向かった。


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