悪性隔絶魔境新宿II−9


色々と支度を済ませ、一行は西新宿のパーティー会場が入った高層ビルにやってきた。
その最上階の会場には難なくモリアーティが偽造した招待状で入ることができた。


「うう…なんでこんな……」


いまだに納得いかなさそうに顔を若干赤くしている立香だが、唯斗の目には、本当にただの女性に見えていた。
赤いドレスはスマートながら下半身を隠すように膨らみとドレープのあるもので、上等なシルクとカシミアの銀白のショールで肩のラインを隠している。腕も長い手袋で覆っており、喉は簡単なリボンで喉仏を隠していた。
長い黒髪はウィッグによるもので、胸の膨らみももちろん詰め物だ。
まったくもって、モリアーティとホームズの技術には純粋に感心する。

アルトリアは黒を基調としたクラシカルなドレス、ジャンヌは濃紺で露出が多いモダンなドレスを着ている。


「てか唯斗マジでずるくない!?そんな格好いい服着ちゃってさ…!」


一方の唯斗とアーサーはタキシードを着ている。
正装のうち、昼間に着るものはモーニングといい、夜に着るものは、指定がホワイトタイであれば燕尾服、ブラックタイであればタキシードを着ることになる。
今回はブラックタイのため、唯斗とアーサーはタキシードの装いだが、大きく異なる見た目をしている。

まずアーサーのタキシードは、ジャケットが真っ白という目立つものだ。ショールカラーという丸みを帯びた比較的狭い幅の襟になっており、この襟は黒で光沢のある生地で、銀のカフスをしている。
スラックスは黒で、ジャケットの下にはカマーバンドという腹巻きをしているが、ボタンを留めているため見えない。

なお、タキシードにおいてはベルトを使わないため、サスペンダーで止める。また、ベストを着用していないときはジャケットを脱いではいけないというルールがある。

一方、唯斗は髪の色がまず迷彩魔術の応用によって銀髪になっており、その時点でいつもと大きく異なる。
その上で、ジャケットは黒でピークドラベルという先端が尖ったまっすぐの襟をしている。襟は光沢がある生地で、アーサーと同じカフスをしていた。
唯斗はベストを着ているため、ジャケットの前は立っているときでも開いていてよく、白いベストをジャケットの間から見せる形だ。

そして二人とも、ブラックタイの由来である黒い蝶ネクタイをしている。

こうして会場に滞りなく入ることができた一同だったが、モリアーティとホームズはビルの外で待機している。
中に入ったこちらは、カルデアとモリアーティたちの観測を通信で聞きながら、思い思いに会場内で過ごすことになった。

解散する前に、面白がったアルトリアが来場客からガラケーを奪い取り、立香の写真を撮って立香の通信機からカルデアに転送した。がくりと落ち込む立香だったが、その後アルトリアとなぜか踊ることになってダンスフロアへ向かってしまった。
これはまたジャンヌが面倒なことになるのでは、と思った唯斗だったが、触らぬ神に祟りなしと言うため、何も言わずにアーサーとともに立香たちとは離れた位置で待機することにした。

待機といっても特に何をするでもなく、唯斗はセレブのフリをしながら会話するなどできそうもなかったため、なるべく目立たない会場の壁際に控える。
アーサーはというと、途端に女性たちに囲まれていた。

しかしここは魔境新宿、女性たちはあからさまに「いくらなら来てくれるか」という金の話に終始している。
色目を使われることには慣れているであろうアーサーだが、さすがに金で買おうとする者たちにダイレクトに囲まれるというのは経験がないようで、ひたすら断っていた。それでも騎士道が抜けないのか、女性をぞんざいに扱えず苦慮している。


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