禁忌降臨庭園セイレムII−1


翌日、天気こそ回復したが、状況は悪くなる一方だった。

朝から矢継ぎ早に事態が急展開する。
まず、カルデアとの通信が回復し、音声のやりとりはできなかったものの、筆談によって情報交換ができた。
どうやら唯斗たちは、このセイレムにいる限り、正史で発生した出来事とミスト内部で起きている出来事とを相対評価することができない。唯斗がずっと感じている違和感のようなものは、恐らく正史と異なる出来事や正史を鑑みれば気づくべきことが、認識阻害によって思い至れなくなっているために起きているものなのだろう。ダ・ヴィンチ曰く、その違和感を客観的に感じ取れていること自体イレギュラーであり、恐らく異なる世界の人物であるアーサーが隣に居続けていることが影響しているとのことだった。

続いて発生したのは、マシュが行方不明になったというロビンの報告だった。アビゲイルと買い出しに出かけていたマシュだったが、カーターがボストンに応援を要請すると言って馬を走らせたのに同行したのだという。恐らく、外の世界に出られるのかどうか試したのだろう。彼女にしてはかなり無謀だ。
念のため後をつけたロビンだったが、セイレムの境界線で忽然と姿を消した。なお、セイレムの中心から7キロ地点、ミストがある位置では、進むうちにいつの間にかセイレムに戻ってしまうという。
さらに、そこで二人分のひどく荒らされた遺体を発見し、立香もそれを確認した。

そして最も悪いことは、マタ・ハリが告発されたことだった。マタ・ハリに迫った村の男が腹いせのように告発したらしく、今晩にも法廷が開かれることになったのだ。

認識阻害によってセイレムの現状を理解できなくなっていること、マシュが行方不明になったこと、マタ・ハリが被告となったこと。すべてが誰かの手の上で動いているような、気味の悪い動き方をしていた。

そうして夜、天気は再び悪化し、星も見えない曇天の夜空の下で、公会堂での法廷が開かれた。


「被告人マタ・ハリ。貴様は悪魔と通じて姦淫を働き、セイレム市民の理性を奪った。神を裏切り、邪なる魔術を行った。魔女として絞首刑を言い渡す」

「っ、そんな、」


被告側の席に並ぶカルデア一同は、分かっていたが最悪の判決に心臓が凍るようだった。
アビゲイルも青ざめていて、立香は拳を強く握りしめている。今にもホプキンスに殴りかかりそうだ。
アーサーはひどく不愉快そうにしており、哪吒は立香に倣って耐え、ロビンは平静を装いながらも打開策は無いか周囲を見渡していた。キルケーは読めない顔をしており、そしてサンソンは無表情だった。

これも公正な裁判によってもたらされた法の結果であるなら仕方ない、とサンソンは考えているだろう。覆すなら覆すだけの覚悟がいる。


「雇用主である藤丸には、一連の裁判費用と賠償金として40ポンド、絞首刑費用として追加で30ポンドの支払い負担を命じる!」

「…くそ、法外な値段言いやがって……」


唯斗は小声で呟いた。現代の日本円にして140万円程度のめちゃくちゃな金額だ。そもそも、この金額を算出する根拠法は新大陸には存在していない。


「こんなこと…!正体見せたな、魔女狩り将軍!」

「おい!死刑囚に近づくな!!」

「どけ!!」


立香はついに駆け出してマタ・ハリに近づくが、兵士たちに止められる。
さらに、キルケーが立香を止めた。恐らく、小声で「次は君がここに立つことになる」くらいは言っているだろう。
もしもここで食い下がれば、先ほどサンソンを庇って絞首刑が決まった夫妻同様に死刑が下されてしまう。それを理解しているから、アーサーは不愉快そうにしているのだろう。


「…反吐が出るね」

「…ああ」


珍しくアーサーがそう言うほどだ。渋々引き下がる立香を見つめる翡翠の瞳には、これまで見たことがないような暗い色が浮かんでいた。


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