禁忌降臨庭園セイレムII−2
北の丘に連行されるマタ・ハリたちと、その後ろを進む村人たちの後方を、カルデアの一行も追随する。
道中、小声で哪吒はキルケーに問いかける。
「あいつを、ぶっとい縄で縛り、神隠しに遭わせる、というのはどうだ?なあなあ!」
「…駄目だ。恐らく被害が広がるだけだ。感じないかい?バランスを取ろうとする意志を」
キルケーの言葉に、唯斗はハッとした。自分でも言っていたことだ。
魔神柱は、セイレムを再現することによって何かを成そうとしている。当然、セイレム魔女裁判を再現することが魔神柱にとって重要なことだった。
ならば、この空間の構成理論、そして因果律は、必ず魔女裁判によって誰かが処刑されることを含んでいる。それを否定すれば、空間を構成する定義が崩壊して、この空間ごとすべてが無に帰すかもしれない。あるいは、そもそも否定することはできず、どう足掻いても誰かが処刑されるということになる。
「…必ず、誰かの死を望むのか。このセイレムの法廷は、それだけ血を必要とする。それが、この世界のルールだから」
「そういうことだ。君ならすぐそこまで至れると思っていた。だから、マタ・ハリにはこのまま死んでもらうしかない」
「な、そんなの、さすがに俺は許せない!」
キルケーに対して、立香はついに否定した。もうこれ以上は、立香の許容範囲を超えている。唯斗にとってもそうだ。カルデアとして、これ以上は見過ごせない。
今にも殴り込みそうな立香だったが、ふと、絞首台に並んだマタ・ハリがこちらに何か言っているのが見えた。唇だけ動かしている。
「っ、立香、マタ・ハリの唇の動き読めるか?!念話とかでもいい!」
唯斗はすぐに立香に声をかけた。立香はすぐにマタ・ハリを見るが、読唇はできなかったのか、ロビンを頼る。ロビンが読み取ったマタ・ハリの言葉は、「これでいいの、キルケーを信じて」だった。
そして、マタ・ハリは抵抗することもなく、目を閉じる。
直後、その足下の床が開き、首をくくったロープだけが体の全体重を支え、3人が首吊り状態となった。思わず目を閉じて、唯斗は拳を握りしめる。
何かキルケーが企んでいたようであるため、マタ・ハリも勝算はあったのだろう。それでも、あの痛みも苦しみも本物だ。
すると、キルケーが「ん?」と声を発した。
「これは…動きが……あ、あああ!」
「ど、どうしたキルケー」
唯斗が聞くと、キルケーは落ち込んだように肩を落とした。同時に、どこか遠くから焦げ臭い臭いが漂ってくる。
「工房が…カーター家が出火している。恐らく放火だろう。私の結界は魔術に対するもの、普通の村人にはどうにもできない」
「な、アビゲイルは!?」
哪吒が焦りを見せたところで、さらに別の声が処刑場に響く。
「判事!グールだけでなく、反抗的な村人までもが武器を手に取って暴動を起こしています!村のあちこちが戦場のように…!!」
夜の暗闇の中、集落の方からは言い争う声や悲鳴が断続的に聞こえてくる。小さな村であるにも関わらず、もはや状況はカオスを極めていた。
しかし、ここまで来れば逆にやるべきことはシンプルだ。撤退、それだけである。
立香はすぐに指示を出す。
「哪吒、アビゲイルを!助け出したら俺のパスを辿って合流して!」
「了解した!」
「キルケーとロビンはマタ・ハリをお願い!」
「俺とアーサーで村に向かう。グールは少なくとも倒さないと。サンソン…あれ、サンソンがいない」
サンソンにも指示を出そうとしたが、サンソンはホプキンスを方へと向かっていた。唯斗の声が聞こえたのか、サンソンは走りながらこちらを振り返る。
「申し訳ありませんマスター!僕はこの場の人々を守ります!」
「っ、あーもう、俺がどれだけあいつに情緒乱されてると思ってんだ!マジで帰ったらボッコボコにしてやる…!」
「…ほどほどにね、マスター。さあ、行こう。僕が君を守る、僕だけは君の傍から離れない」
サンソンのせいで、ここのところ頭も心もぐるぐるとしっぱなしなのだ。アーサーは優しく宥めてから、集落の方へと促す。今はとりあえず戦いからだ。
キルケーに合流地点まで魔術で目印をつけるよう依頼してから、唯斗はアーサーとともに集落へと向かう。グールを倒して、できる限り村人を落ち着かせる。その後、夜の暗闇が続くうちに立香たちへ合流する算段だ。