禁忌降臨庭園セイレムII−5
「…は?サンソンが…?」
立香から報告を受けた唯斗は、ボストンから帰ってきたカーターに宛がわれた空き家の中で、愕然とここにいないサーヴァントの姿を思わず探してしまった。
アビゲイルはいったんこの家に戻っており、マタ・ハリとシバの女王は森の中のセーフハウスに待機している。他のメンバーでこの空き家に滞在しているが、サンソンの姿はなかった。
なぜなら今、サンソンは拘置所にいるからだ。
「…ホプキンスを刺殺したのはラヴィニアで間違いないんだな」
「うん。アビゲイルもそう言ってたし、状況からしてもそうだと思う。ラヴィニアがホプキンスを滅多刺しにして、捕まえようとした警官たちをサンソンが止めて、その間に逃がしたんだ。直前まで、アビゲイルがホプキンスに狙われてたけど、これで、明日の裁判はサンソンが出廷することになる」
「私は仮死薬を作る。厨房には誰にも入れないように」
事態は悪化の一途を辿っている。キルケーも真剣な面持ちで厨房に入った。次はサンソンだからだ。
アーサーは唯斗の肩を抱いて、マシュと哪吒も沈痛な面持ちだ。
アビゲイルは高熱を出して寝室で休んでおり、先ほどキルケーの薬膳粥でなんとか回復しつつあるところである。
どうやらアビゲイルは、ラヴィニアに教わった秘密の儀式の場所でホプキンスたちに出くわし、さらに突然現れたラヴィニアがホプキンスを刺殺。サンソンが庇い、ラヴィニアは逃亡しており、サンソンは投獄された。
ラヴィニアは捕まり次第、絞首台行きだろうし、サンソンも死刑判決が出るだろう。そして次はアビゲイルだ。
「…今日でセイレムに来て6日目、明日で1週間か。なるほどな、これが最終局面ってわけだ。アビゲイルに対する魔女裁判、そこが最後の舞台になる」
「な、唯斗さんはアビーさんを疑っているのですか…?!」
「逆にお前は、カルデア以外の誰を信じるっていうんだ、マシュ。メディアに扮していたキルケーを信じるか、なんて次元じゃない。俺は今すぐにでもこの村の住民を全員殺してもいいと思ってる。アビゲイルも含めてな。でも、そのリスクが計り知れないから実行しないだけだ」
「そんな…」
「マスター、落ち着いて」
さすがにアーサーに宥められ、唯斗はひとつ大きく深呼吸する。つい、口調がきつくなっていた。
「…悪い、マシュ。嘘、ではないけど…状況からして、アビゲイルは間違いなくこの空間の鍵だ。アビゲイルしか史実に登場する実在の人物はいないんだからな。魔神柱かどうかは分からないけど、なんであれこの空間を構成するキーポイントになってるのは確かだ。そんなアビゲイルが法廷に立たされるとき、それがこの魔女裁判の終わりだ」
「そうだね。でもその前にサンソンのことだよ唯斗。サンソンをなんとしても助けないと」
「……、そうだな」
立香は場を執り成すように言ってくれたが、唯斗は目線を逸らして曖昧に答えることしかできなかった。
すでにこの空間は、必ず法廷で犠牲者が出るように因果が確立されている。被告がサンソンだけならば、もはやサンソンが死刑になるのを防ぐには、別の誰かを身代わりにするしかない。そして身代わりになり得るのは、姿が見当たらないラヴィニアや証言が出来ないアビゲイルではなく、旅一座の誰かだ。
サンソンがあからさまにホプキンスの元についたのは、サンソンが唯斗をマスターと呼んで信頼する様子を見せてしまったからだ。つまり、サンソンの代わりに処刑台に立てるのは、恐らく、唯斗だけ。
それをサンソンがよしとするとは思えない。
サンソンを無理矢理死刑にならないようにすれば空間構成理論ごと唯斗たちの存在すら消失するかもしれない。しかし死刑が執行されればサーヴァントとして消滅する。
抜け道としてはやはり、キルケーの仮死薬によって一度死ぬ感覚を味わってもらうしかないだろう。