禁忌降臨庭園セイレムII−6
翌朝、もはや7日目の太陽がセイレムに昇ることはなかった。
時間の進みが早すぎて、もうすでに夜になっているのだ。これを異常だと感じ取れるのも、一度シバの女王の結界内に入ったからに他ならない。
夜の暗闇が朝を飲み込み、井戸の水はタールと化し、虫やコウモリが飛び交い、異臭が立ちこめ、瘴気と霧が村を覆う。
すでに、暴動参加者やそれを鎮圧した港の水夫たちまでもが処刑されたという。
そんな中で、法廷が開かれた。
被告人席に立つのはサンソン、その弁護席に立つのはカルデアメンバー。ホプキンスはもういないため、もともとこの村の判事だった老齢の男が取り仕切る。
開廷に先立ち、キルケーは立香と唯斗に耳打ちした。
「さっき、サンソンに仮死薬を渡そうとしたんだが、あいつまったく受け取ろうとしない!何を考えているんだ、頭から受け取りを拒否するなんて…」
「……え、」
思わず呆然とする唯斗だったが、判事のよく通る声が法廷が開かれたことを宣言する。
そして、ホプキンスに起きた事件の詳細を語ってから、罪状に入った。
「以上が警官たちの証言である。ラヴィニア・ウェイトリーは逃亡中、この悪天候のため捜索ははかどっていない。重要参考人アビゲイル・ウィリアムズは体調不良につき、保護者カーター氏が証言する。では聞こう。シャルル=アンリ・サンソン。あなたは自らホプキンス判事の護衛を申し出たにも関わらず、その義務を果たせなかったばかりか、実行犯ラヴィニアの逃亡を現場で手助けした!この事実を認めるか?」
「……認めます。すべて事実です」
サンソンの落ち着いた声が罪を肯定する。
これでは死刑は確定であり、さらにキルケーの仮死薬も受け取っていないため、執行されればそのまま死んでしまう。何を考えているのかさっぱり分からない。
あまりにも理解が及ばないため、思わず唯斗はアーサーを見上げたが、アーサーも驚いたようにしていた。
誰も、カルデア側も誰もが、サンソンの意図を知らなかった。
「ではこれは、もとより閣下を死地に追いやる狡猾な企てであった!そう言われても致し方在るまい!」
「っ、異議あり!」
ついに唯斗が立ち上がる。まずは死刑を回避して問い詰めることからだ。マスターである自分にも何も言わずに死を選ぶなど、サンソンがそんなことをするとは思えなかったのだ。
判事の正面に向かい合うように立つサンソンの右手、証言台に立ち判事に強く言い放つ。
「ラヴィニアの証言なしに本件の判決が下されるべきではないだろ」
「何言ってるんだ!あのウェイトリーの娘だぞ!魔女に決まってる!」
「出所の怪しい大金をちらつかせて、いつも傲慢な態度だった!ラヴィニアは魔女だ!」
傍聴席の村人からそんな声が上がるが、唯斗はそちらを睨み付ける。黙れ、と口にはしなかったが、唯斗を見て人々は口を閉ざした。
「ラヴィニアが魔女であるかはそもそも本件には関係がない。だがそれを抜きにしても、これはまさに神意に逆らう重大な罪を村全体で犯しているという端的な事実に他ならない。背教者の誹りを受けたくなければ俺の問いに答えろ」
「な…ッ、旅芸人の分際で!」
判事が怒りを滲ませるが、唯斗はあくまで冷静に、冷静に睨み付けた。必死に思考を冷静に保っているようなものだ。いつ、ガンドを放って危害を加えるか自分でも分からないほど、すでに頭は煮えていた。
それなのに、不思議と思考は冴えていた。
言葉の悪さに村人たちは再び敵意を滲ませるが、しかし背教者という言葉への本能的な恐怖があるのもまた、プロテスタント社会ならではだ。
「先日のウェイトリー一家の処刑以降もグールによる襲撃は止まらず、ウェイトリー家が一連の事件に関わっている可能性は低くなった。むしろ事態は悪化し、もはやセイレムに神の慈悲は見受けられない。なぜか?それは、何人もの『都合の良い』人間をここに立たせ、処刑させ、魔女が当たるまでルーレットのように裁判を続けているからだ。それはつまり、神の意そのものである法を試す行為であり、まさに神を試す行為だ」
しん、と静まり返る公会堂。そこに、唯斗の声だけが響く。
「聖書に帰れという言葉に始まったあなたたちの旅の果てに、あなたたちは聖書を忘れた。次は自分の番になるのが恐くて、神の加護を得られるよう他者をスケープゴートにして処刑し続けるなど神を試す行いに他ならない。イエスは悪魔に扮した天使の誘いに、私は神を試さないと毅然と述べた。あなた方は、真に審判の日に主の元に召される自信がおありか」
キリストの受難に語られるやりとりだ。必要悪として聖書に語られる、悪魔の振りをする天使がいる。この天使はキリストをあえて誘惑し、その信仰が本物であるか確認した。
その中でキリストに、天使は「神の加護を立証するために飛び降りてみろ」と言い、キリストは「私は神を試さない」と答えるのだ。