禁忌降臨庭園セイレムII−8
ふっと目覚めると、そこは変わらず真っ暗な曇天の下で、処刑場から離れた森の中だと気づく。集落からも離れ、アーサーと二人きりだった。
「起きたかい、マスター」
「っ、サンソンは!?」
すぐに立ち上がると、ずっと座っている姿勢だったためか、くらりとする。アーサーもすぐに立ち上がって、唯斗を正面から抱き留めるように支えた。
「執行される前に君を連れて離脱したから分からない。時間的に、刑は執行されただろう」
「ッ、じゃあ俺にサンソンを見捨てさせたんだな!?」
アーサーにまで怒りの矛先が向く。
第一特異点修復後から今に至るまで、ずっと唯斗を支えてくれた古参のサーヴァントであり、同じフランスの人物として、そして近代の人間だった英霊として、きめ細やかな支え方をしてくれたサンソン。
その最期にろくな言葉をかけてやれたわけでもないどころか、よりにもよって、処刑という形でサンソンの最後を迎えさせてしまった。
その怒りも悲しみも、唯斗が持つことができるようなものではなかった。
「…ッ!!くそ、くそッ!!今から全員殺してやる、村人全員殺せば魔神柱も姿を現す!どうせこれが最後のレイシフトなんだ、この空間ごと全員死んだって人理に問題ねぇだろ!!」
「……マスター」
「うるせぇ!いいから、宝具解放するぞ!!」
唯斗は右手を掲げ、令呪による魔力装填と命令の強制を含めて、アーサーにエクスカリバーの解放を指示しようとした。
全員殺せ、このセイレムの人間を皆殺しにして焼き払え。言葉にすれば簡単なはずなのに、口に出てこない。
「……ッ、!!」
「…唯斗、」
優しい声音で名前を呼ばれる。
視線を落とすと、自分の左手の薬指と、アーサーの左手の薬指に、同じ輝きが嵌まっているのが見えた。夏の特異点でアーサーにもらった指輪だ。
こんなひどい空であっても、その輝きが褪せることはなかった。
「……できるわけ、ねぇ…」
「…、」
「言えるわけ、ねぇじゃん…アーサーに、そんなこと、させられるわけ…いや、誰にも、そんなん、できるわけない…させたくない……!」
「…うん、そうだね。君は、そういう子だ」
そう言って優しく微笑むと、アーサーは唯斗を抱き締めた。後頭部を撫でて、背中を包むように腕が強く抱き込む。
「ふ…っ、ぅう…ッ、なんで…!なんでこんなこと…っ!!」
「…ごめんね、先の特異点に続けて泣かせてしまった」
アーサーの肩に顔を埋めて、縋るように抱きつく。目からそのまま感情が溢れているようだ。
激高して、アーサーにひどい命令を下そうとして、ロビンには殺すと言ってしまった。
そして、サンソンをどうすることもできず、なんの言葉もかけてやれず、2年にわたってあらゆる角度で唯斗を守り続けてくれたサンソンと、こんな別れ方をしてしまった。
「っ、サンソンにも、ロビンにも…こんな…ッ!っぅ、おれ、」
「うん、」
「アー、サー、アーサー、おれ、もう、やだ…っうッ、こんなところ、いやだ…っ!」
「…君をこんな目に遭わせた者は、決して私が許さない。必ずこの手で処断する。だから、もう少し立てるかい?唯斗。大丈夫、君が言っていた通り、もう佳境だ。きっと魔神柱はすぐに姿を現す。僕は君を守り世界を守るために、この剣を振るう。これ以上、君を傷つけさせてたまるものか」
低く言ったアーサーは、本気でこの事態の首謀者を徹底的に滅ぼすつもりのようだった。
つい弱音を吐いてしまった唯斗を否定することはせず、一方で共感もしなかった。安易な言葉は言わず、ただ、決意だけを述べた。
ひとしきりアーサーの肩を濡らしてから、唯斗は顔を上げる。まだアーサーの腕の中にいるが、至近距離でその端正な顔を見上げた。
「…、ごめん、取り乱した…次は俺たちが被告人だ。正面切ってやり合う機会だ。でもその前に、ロビンに謝らないと」
「…そうだね。サンソン殿のことは…少し、時間をかけよう。すぐに何かを成す必要はない。まずは生きてこの特異点から帰還する。そのあとに、心と向き合おう。それまで決して君の心を折れさせることはないし、僕が守り抜く。そして、君が感情と向き合うときには、僕も傍で共にいよう」
「……ん、ありがとう」
深呼吸をして、乱れた息を整える。
怒り、悲しみ、悔しさ、様々な強すぎる感情が止むことはない。だが、泣いたことで意識はすっきりとしていた。隣に立つアーサーが、そうさせてくれたのだ。