禁忌降臨庭園セイレムII−9
森の中でアーサーと一晩を過ごして、セイレムは8日目の朝を迎えた。7日目になってからほんの僅かしか経過していない。
相変わらず夜の曇天が空を覆い、瘴気が村を包み込み、腐臭が漂う。
そんな最悪な状態の村の中を公会堂に向かったが、もはや姿を隠す必要もない。公会堂に向かう人々には、生者もいるが、グールも多く混じっており、中には前に倒したグールすらいた。誰もそれに疑問を抱かないのは、やはり村人たちも作り物だからだろう。
たとえ作り物であっても、人々を虐殺することを意味する命令はできなかった。唯斗にはアーサーにそこまでさせることはできなくて、アーサーはそれでいいと言ってくれた。
とはいえ、あまりに馬鹿らしいとも思う。
唯斗の躊躇を別にしても、村人たちをすべて殺したところで甦って法廷の傍聴席に座ったはずだ。この空間は、そうできている。
そうして公会堂にやってくると、建物の裏手にロビンとマシュの姿が見えた。アーサーと二人、唯斗たちを待っていてくれているのであろうマシュたちのところへ向かう。
「マシュ、ロビン」
「唯斗さん!良かった、アーサー王が一緒なのでご無事とは思っていましたが…」
「立香たちも無事に出廷するんだな」
「そこは抜かりなく監視してたんでね」
ロビンが答え、唯斗が目をやると、ロビンはやはり気まずそうに目線を逸らした。
ロビンは、唯斗にとっても立香にとっても、近しく身近な相手だった。それは彼の英霊としての成り立ちが一般人染みているからだ。
そんなロビンは、これまで何度も、マスターではない唯斗にまで世話を焼いてくれたし、メンタルがきついときにそっと寄り添ってくれた。そういう気遣いの細やかさはサンソンと同じだ。
そんなロビンに、唯斗は二度も胸ぐらを掴んで怒りを示したし、挙げ句の果てに「お前から殺すぞ」とまで言ってしまった。唯斗がロビンをどうこうできるわけもないが、そういうことは問題ではない。
そんな言葉を浴びせたこと自体が、許せなかった。
「…、ロビン、」
呼びかけた声は若干震えている。自分でそれに気づき情けない気もしたが、この感情の吐露が無駄ではないと、恥ずべきことでもないと、唯斗は知っている。
「…ごめん、ひでぇこと言った。いつも守ってくれて、サンソンのことも、ロビンなりに考えて、俺に接してくれてたのに、俺、抑えきれなかった…ごめん、ロビン」
ぽろ、と頬を水滴が伝う。ロビンはそんな唯斗に目を見張ってから、いろいろ言いたそうにするのを飲み込んで、そしてこちらに距離を詰めた。
「…ちょっと失礼しますよ、騎士王さん」
そう言うと、ロビンは唯斗を正面から抱き締めた。マントに包まれるような形で腕が背中に回り、5センチほどの身長差なだけあって、すぐそばに二枚目な顔立ちが迫る。
「っ、ロビン、」
「まぁ、その、なんだ。こういう憎まれ役は俺にお似合いだから、なんて言いたいところだったんだが、そんなん言ったら、あんたもっと傷つくでしょ。でも他にぶっちゃけ気の利いたことなんて言えないんで…ひとつだけ」
ロビンはそっと唯斗の頬を伝う涙を指先ですくい取り、至近距離で微笑む。
「あいつの代わりに、俺があんたを守る。俺の性根は変わらんし、それも含めてマスターも唯斗さんも俺を受け入れてくれてますけど、それでもこうやって俺なんかのために真摯に心まで動かしてくれるってのは、まぁ、さすがの俺でも、思うところはあるんすわ」
「…ロビンの優しさは、すごく落ち着くから、好きだよ」
「っ…もー、そういうとこっすよ、ほんと。ほら、ここから正念場です。あいつの分まで俺が守るし、戦ってやる」
「…あぁ、頼んだ」
これ以上、魔神柱の好きにはさせない。まだサンソンのことは大きく心に影を落としており、今も簡単に涙が零れたように感情は落ち着いていないが、それでも、戦うことはできる。
隣にいてくれる人たちのおかげで、唯斗はまだ、立つことができた。