禁忌降臨庭園セイレムII−13


ラウムはそう叫ぶと、ついに真の姿を現した。
黒々とした肉の壁、無数の眼球が睥睨する肉の柱。公会堂の天井を突き破り、木製の壁は崩落し木材の瓦礫が降り注ぐ。窓が割れ、柱が倒れ、轟音と共に崩れた天井から覗く空は、星空になっている。


「晴れてる…?いや、まさか、」


唯斗が一つの可能性に思い至ったとき、それを証明するように通信が回復した。


『立香君!唯斗君!聞こえるかい!?』

「ダ・ヴィンチちゃん!?」

『ミストが晴れ始めている!こちらからも観測ができているよ。どうやらミストによる結界が綻び始めているようだ』

「…違う、」


ダ・ヴィンチの言葉に、唯斗は呟く。これはそういうことではない。
確かにこの公会堂はシバの女王によってセイレムの影響を受けていないが、外は違う。そして、ラウムはその力をすべて解放している状態だ。
つまり、これはミストの結界が綻んだのではない。

シバの女王は、セイレムを触媒に霊体を大量に降臨させたと言っていたが、それは単なる装置でしかない。本当にラウムが行おうとしていたことではなかった。

ウェイトリー家は外なる神を降臨させることを目的とし、魔神柱はそれを知ってあえてセイレムに招いた。
そしてそもそもウェイトリーもカーターも、ラヴクラフトの小説に出てくる人物だ。カーターはラヴクラフトの作品において、ラヴクラフトの分身のような存在として描かれており、ドリームランドと呼ばれるクトゥルフ神話における異世界と現実とを行き来することができる。

また、異なる次元を繋ぐ銀の鍵を所有していた。アビゲイルは大量の鍵を周囲に浮かべて哪吒たちと戦っている。


「ダ・ヴィンチ、違う。これは、ミストが弱まったんじゃない」

『それはどういう…』

「上書きだ、セイレム内部に魔神柱ラウムが展開していた理論が、外側に拡張を始めてるんだ。現実を、ラウムの作り出した虚構のセイレムが浸食してるんじゃないか?」

「なかなか賢しいな、お前は。だがそれもやや惜しい」


唯斗の言葉を聞いていたラウムは嘲笑うように言った。それに対して、アーサーが剣を握る力を強める。


「…マスター、そろそろいいかい?話す必要があるなら待つが、そうでないなら仕留める」

「もうちょい待ってくれ」

『…っ!本当だ!まずい、北米全体で魔術体系に揺らぎが生じている…!これは、本当にまずいぞ…魔術協会、聖堂教会、あらゆる魔術師たちに発する大号令を出さなければ…これはもしかしたらカルデア解体の隙となるかもしれない、だが、私たち以外に、このセイレムに降臨する異端から人類史を守ることはできない』


ダ・ヴィンチは、北米全体で魔術体系が綻び始めたことを確認すると、意を決したように言った。


『立香君、唯斗君。これより一時的にセイレムを封鎖する。今度は逆に、外部からの多重の結界で閉ざす。限られた時間内で原因が取り除かれなければ、結界の内部に対し、あらゆる焼却手段が用いられるだろう』

「俺たちが成し遂げられなかったら、多分間に合わない。核兵器を使ってもな。もしもラウムが本当にラヴクラフトの世界を再現するのなら…あれは、ある意味で真のフォーリナーだ。異世界に繋がることになる」

『…?よく分からないが、まぁ君が言うならそうなんだろう。立香君と二人、君たちが頼みの綱だ』

「任せてダ・ヴィンチちゃん!やろう、唯斗」

「あぁ」


ラヴクラフトの作品において、カーターは異世界に繋がる銀の鍵を所有する。その権能をアビゲイルが持っているとすれば、これから降臨するのは、クトゥルフ神話において異世界の、あるいは未知の神として存在する何者かということだ。十中八九、ろくなことにはならない。
そして、それによってラウムはこの世界を浸食し、理を書き換え、魔術を破却し、ここに真の人類の救済をもたらそうとするだろう。


283/314
prev next
back
表紙へ戻る