禁忌降臨庭園セイレムII−14
迅速にラウムを倒し、アビゲイルを無力化する。こちらの目的は固まったが、戦力は乏しい。
魔神柱と戦うのはアーサーとシバの女王で、アビゲイルと戦うのは哪吒とロビン、キルケー、マタ・ハリだ。
さらに、非戦闘員は立香とマシュ、唯斗の3人にラヴィニアもいる。
しかも周囲にはグールが大量に蠢いていた。
「立香、マシュ、こっちに固まれ!」
「分かった!」
「はい!」
結界を展開しやすくするため、唯斗は二人を近くに呼ぶ。
同時に、アーサーはいよいよラウムへの攻撃を開始した。
シバの女王は何やら小動物を出現させ、それによる爆撃を行っている。アーサーは剣戟によって次々と眼球を潰していく。
肉壁を駆け上がって、アーサーは聖剣を連続して眼球に突き刺したり切り裂いたりしていき、10メートルほどの高さで潰れた眼球から肉の内側に剣を突き立て、魔力を解放する。
眩い聖なる光が内側に放たれたことでラウムは低い悲鳴を上げて、残った眼球から一斉に紫色の光線を発射した。
光線は証言台や十字架、残った壁や柱、傍聴席の長椅子などを破砕して吹き飛ばし、シバの女王とアーサーはそれぞれ避けながら飛び退いた。
こちらにも光線が迫ったため、唯斗は結界でそれを防ぐ。
光線を弾いたところで、結界を解いた瞬間、唯斗の眼前にグールが現れた。どうやら結界の内側から外側が見えていなかった間に接近していたらしい。
「ッ…!」
鋭い鉤爪を振りかざすグール。咄嗟に次の結界を展開しようとしたが、そこに、連続して矢が放たれた。グールはその矢によって動きを止めて、ボロボロの床に倒れる。
そして唯斗の前に緑色のマントが翻った。
「怪我はねぇですかい」
「あ、りがとう、ロビン」
「アビーはマタ・ハリとキルケー、哪吒の3騎で牽制できる。どっちかというと、この大量のグールの方が厄介ですねぇ」
ロビンは唯斗を庇うように立ちながら、右手のボウガンを構える。
それを見たアーサーは、ロビンに声をかけた。
「ロビンフッド殿!マスターのこと、サンソン殿の分まで任せた!私は魔神柱を撃滅する。マスターを苦しめたこいつを、楽に死なせるわけにはいかない」
「…こっわ、ガチギレじゃねーか…ま、言われなくても守りますよっと」
ニヤリとすると、ロビンはこちらをちらりと振り返る。
「唯斗さんは俺が守ります、マスターとマシュ嬢は任せました」
「…了解、頼む」
グール狩りはロビンがやってくれるため、唯斗は非戦闘員たちの保護に集中できる。
アーサーはロビンが言う通りキレており、唯斗をつらい目に遭わせた魔神柱を徹底的にぶちのめすつもりらしい。
姿を露わにしたエクスカリバーで、さらに追撃を開始した。光線を剣で弾きながら接近し、残った眼球に突き刺す。そして突き刺したまま、アーサーは再び魔神柱の側面を駆け上がり始めた。
まるでカッターで紙を裁断するかのように、あるいは魚に包丁で切れ込みを入れるかのように、アーサーはその膂力にものを言わせて魔神柱の縦に並んだ眼球を一気に切りつけながら走って行く。
「が、ぁぁあああッ!!!」
すでにセイレムの維持管理で魔力を消費しきっていたラウムは、ほぼアーサー単騎で仕留めることに成功したようだ。
魔神柱としての姿を保てなくなると、悲鳴を上げてその力を急速に減衰させた。
元の人の姿に戻ると、おもむろに、ラウムはその烏の頭を切り離した。
完全な1羽の烏となって人の体を捨て、瓦礫の山と化した公会堂の中を一直線に飛び出す。
「っ、マスター!」
アーサーは鋭い声で警戒を呼びかけるが、恐らくラウムの目的はこちらではない。
「アビゲイル…!」
その先は、哪吒たちが牽制を続けていたアビゲイル。最後の最後でいったい何をするつもりなのか。
しかし、アビゲイルに到達する前に、ラウムの前にラヴィニアが立ちはだかった。アビゲイルを庇うように立ったラヴィニアを、ラウムの嘴が抉るように突き刺す。
鮮血が飛び散った直後、すでにこちらに駆け寄っていたアーサーが、ラウムを頭上から思い切り聖剣で突き刺した。床にピン止めされるかのように、剣で貫かれた烏は木目の床に縫い止められる。
「ラヴィニアさん!!」
マシュの悲痛な声が響くが、ラヴィニアは血を流して倒れた。すでにその目は閉じている。もう息はないだろう。
アーサーの剣に貫かれたラウムは、まだうめき声で言葉を発した。
「時空の門が…増え続けている…ノンフィクションの魔術師どもに……この脅威に、対処できるはずが…ない…六つ目の罪状…それはささやかな……アビゲイルは、捨て去るだろう…人の心を、言葉を、望みを、すべて……」
「黙れ」
アーサーは銀製の踵で思い切りその頭を踏み潰した。汚い声とともにラウムは絶命する。
剣を引き抜いて血を払うと、アーサーは唯斗を見遣る。
「すまない、間に合わなかった」
「いや…仕方ない。でも、ちょっとまずいな。アビゲイルを世界に繋ぎ止めていたラヴィニアがいなくなるってことは……」
「ええ、もう、手遅れです」
シバの女王も頷く。キルケーはアビゲイルを見つめながら警戒を一段と強めた。
「あぁ。アビゲイルは人ではなくなった」