禁忌降臨庭園セイレムII−17
それはサンソンの宝具の真名だった。ボロボロになりながらも立ち上がり、そしてボウガンを放ってアビゲイルを牽制する。
「マスターが、唯斗さんが、今までやってきたことが罪だって?そりゃねぇっしょ。よくわかんねぇ御託をつらつらと語ってますがね、今の言い分だけは間違いだって指摘できる。いいかい。うちの座長が無意識に願ったものがあるとすれば、それは地上すべて、なんてもんじゃねぇ。あるのは救えなかった人々への責務だ。もっとうまくできたかもしれないという傲慢さだ。俺と同じ凡人だからな、地上すべての救済、なんて求めたことは一度もねぇ!あるのは、これから広がっていく自分たちの明るい未来予想ぐらいなんだよ」
「ロビン…」
ようやく立香の声に覇気が戻る。ロビンはそれを見て微笑んだ。
「それでいい。まったく、死んでもなお贖罪なんて求めるなっつーんだよ。そうでなきゃ、あの学者様があまりにアホらしい。それがあの男の、最後の希望だったんだから」
ああそうか、と、ようやく唯斗は理解した。
なぜサンソンが、あえてこの場で死を選んだのか。なぜ、絞首台で自ら死を望んだのか。
それは希望だったのだ。罪なき2000人の人々が、その安らかなギロチンによる死でもって救われたことを祈ったように、無辜の人々を処刑した自分が赦されるためには、救われるためには、死が必要だった。
サンソンは死というものに、明日への希望を抱いたのだろう。
「…ずっと、救われたかったのか。赦されたかったのか、あいつは」
思えば、第一特異点で敵だったサンソンも、その後カルデアにやってきたサンソンも、ずっと救いを求めていた。マリーに許されたいと願ってフランスで剣を血に染めて戦い、そして自分という存在を許されたいという無意識の願望が、唯斗を夢へと引きずり込んだ。
死による断罪、それはシャルル=アンリ・サンソンという男の、希望であり救いに他ならなかった。
すると、アーサーがふらふらとしながら唯斗の隣に立った。腕を上げるのもつらいだろうに、唯斗の頭をそっと撫でる。
「サンソン殿は確かに、死に救いを見出していた。でも同時に、君と一緒に過ごすことは、君の剣であることは、彼に人理修復という正しい行いをするチャンスを与え、そして、君に在り方を受け入れられていたことが、彼の救いになっていた」
「…うん、ありがとう」
静かに答えて、唯斗はアビゲイルを見据える。
アビゲイルはなおも、邪悪な笑みを浮かべていた。
「そう…ふふ、だからなのね…たった一人の子供を救うくらいわけない、そんな風に思ってしまったのは」
その瞬間、セイレムを覆っていた巨大な結界が崩壊した。魔力が途切れる感覚が肌に伝わる。
「今、結界を破ったわ。抑えきれなかったようね…私の指先は、もう、世界のどこにでも届く…」
「っ、くそ、これじゃ魔力供給源が全世界に及ぶ、無尽蔵の魔力を手に入れたも同然だ…!立香、早く倒さないと」
「うん、でも、どうやって…」
立香はすでにしっかりと立っている。しかし、圧倒的な強さのアビゲイルが、さらに地球70億の魔力を得ようとしているという現状に、どうやって立ち向かうべきか分からない様子だった。こればかりは、唯斗も速攻で片をつけるということくらいしか言えない。
すると、シバの女王はキルケーに声をかけた。
「…キルケーさん、あなたにはご迷惑ばかりかけてしまいましたけれど、もう一つだけ」
「…聞こうじゃないか」
「アビゲイルはまだ門を使いこなせていない、まだ外なる神と一体になっていません。限界がある。だから…私とあなたとで、すべての門を内側から塞ぎましょう」
「簡単に言ってくれる…まぁでも、最古の魔女の一人である私が、最後の魔女に負けるわけにもいかないか。いいよ、やろう」
なんと、シバの女王とキルケーは、この公会堂にさらに結界を張ることにしたらしい。それはつまり、アビゲイルが門を通して世界に与えようとしている苦痛を一手に引き受けるということだ。
アビゲイルはそれに表情を曇らせる。
「だめよ、そんな自殺まがいのこと、神が許さないわ」
「悪いけどねぇ、新米の!私の奉ずる神は、女神ヘカテだ!ぽっと出の神とは格が違うんだ」