禁忌降臨庭園セイレムII−18
そう言って、キルケーとシバの女王の結界が展開された。途端に二人とも苦悶の表情を浮かべる。相当に苦しいのだろう、汗を浮かべて結界を維持している様子に、立香はぐっと拳を握りしめる。
「…アビゲイル」
「座長さん…お芝居の時間は、もう終わり…このセイレムで、無意味に死んでくださいな…!!」
「っ、ロビン!」
アビゲイルが触手を立香に向けて放った瞬間、立香はロビンに瞬時に礼装の回復機能をかけた。同時に、ロビンは宝具を発動する。
「
祈りの弓!!」
床を突き破って現れた木の幹がアビゲイルを包み、触手をも枝で絡めて取って、その悪性をダメージに置換する。アビゲイルは苦痛に呻いてから、太い触手をロビンに向けて叩き付けた。咄嗟にロビンは避けたものの、その衝撃によって床の木材は砕けて地面が剥き出しになる。
「アーサーも宝具真名解放するぞ!」
「了解!」
額から流れる血を乱暴に拭ったアーサーは聖剣を構える。それを見て、アビゲイルは顔をしかめた。
ロビンの出現させた木が消失するのと同時に、アビゲイルは瞬間的に魔力を増大させる。
「その剣は…いけないわ…!」
そして、額に浮かぶ鍵穴に謎の目がこちらを睥睨したかと思うと、背後から大量の触手が現れて、鍵穴が拡張されて巨大な穴が出現する。アーサーは迫る触手を避けようとしたが、数が多すぎたのとダメージが大きかったことから、右足を絡め取られた。
「
光殻湛えし虚樹」
「な…ッ!」
「あなたはこの世界の人じゃないのでしょう?なら、元いた場所に帰らないと。繋げてあげる、私の鍵で」
黒々とした穴の向こうは、なんとアーサーが元いた世界だという。時空の隙間であるため向こうの様子が見えるわけではないが、右足を掴んだ触手に引きずられ、アーサーは思いきり引っ張られる。
さらに、アーサーが自分の足を掴む触手を切り裂こうとすると、別の触手が勢いよくアーサーの腹を貫いた。鎧が砕けて消失し、鮮血が飛び散り、口からも血を吐く。
「かはッ……!」
「ッ、アーサー!!!」
唯斗は咄嗟にその左手を掴んだ。ものすごい力で鍵穴へとアーサーを引きずり込もうとする触手と唯斗とで綱引きのようになるが、床に倒れたアーサー諸共、唯斗も引きずられてしまう。
「っ、いけない…マスター…!!」
「唯斗!!」
アーサーは息も絶え絶えに朦朧としながら制止しようとして、立香も叫ぶ。しかし、唯斗は自分の正面に結界を展開すると、それを壁に体を支え、アーサーの腕を掴み続けた。
必死に自分の結界に掴まって全身でアーサーを支える。
「ごめんなさい唯斗さん、サンソンに続いて大切な王子様まで。でもあなたもすぐ救ってあげるわ…」
「ッざけんな!!」
「だめだマスター…、腕が…!」
激痛が走る右手は、先ほどの攻撃で出血しており、今もアーサーの体を引っ張っていることで、ダラダラと血が床に垂れていた。結界に体を押しつける格好のため、左肩も脱臼したのか激しい痛みが迸っている。
その痛みを振り払うように、唯斗は叫んだ。
「恋人守んのは当たり前だろうが!!」
そう啖呵を切りながら、唯斗は視界に強化をかける。瞬時にアーサーの右足を掴む触手と、腹を貫く触手の魔術回路を見極め、魔力が通っていない部分だけを器用にすべて転移させた。
この前の東京での特異点において、父から学んだ戦い方だ。
「ヴァズィッ!ロビン!!」
左手の刻印に魔力を籠めれば、すぐに2本の触手の魔力が通っていない肉が消失する。細く細切れになったそこを、意図に気づいたロビンはすぐにボウガンで射貫いた。簡単に切断された触手は、切り離された部分が霧散する。
「
生は死とともにあり、死は生とともにある!」
そしてすぐに、アーサーに高位の術式をかけた。これは、蓄積されたすべての怪我を回復しつつ、しばらくの間、攻撃を無効化して弾く結界を体に纏うものだ。
致命傷に近い怪我を負ったため、令呪による魔力装填より先に回復術式を優先した形だ。消費する魔力量は、瞬間的には令呪一画に相当する。