禁忌降臨庭園セイレムII−22


こうして、最後のレイシフトが完了した。
無事にカルデアに帰還し、コフィンを出る。アーサーも、立香たちも無事にコフィンから出てきているが、サンソンが入っていたコフィンは空になっていた。
アーサーは唯斗の傍に寄り添ってくれているが、とりあえず今はまだ、気を緩めずにいようと深呼吸する。


「あれ、ダ・ヴィンチちゃん来ないね?」

「そうですね、どうしたんでしょう…?」


いつもなら、このカルデアスの足下にあるコフィンのところへダ・ヴィンチもやってきて出迎えてくれるはずなのだが、ダ・ヴィンチは出てこない。
とりあえず、このあとはレイシフト後の検診を受ける必要があるため、立香とマシュ、唯斗は医務室に向かわなければならない。だが、立香たちはナイチンゲールが行っているものの、唯斗はサンソンがこれも担っていた。

いろいろとどうしたものか、と思いつつ、やるべきことはまずやらねばならない。


「とりあえず、医務室行くか」

「そうだね、まずはそれからだ」

「今回は僕も同行しよう」


いつもはここでアーサーと分かれているが、今回はアーサーも一緒についてきてくれるらしい。それが必要だとアーサーが判断する程度には、やはり唯斗の心は限界が近いようだ。
当然だ、自分ですら、自分の心を直視してない。見ていない振りをしている。そうしなければ、保たないからだ。

とりあえず立香、マシュも伴って4人で医務室に入ると、ナイチンゲールが出迎えてくれた。サンソンが消失したことは聞いているらしい。


「ミスター・サンソンのことは聞き及んでいます。身体検査は私が行いますので、マスター、マシュの次にあなたです」

「分かった」


まずは立香が丸椅子に座ったところで、唯斗とアーサーは待機用のソファーに腰掛ける。ナイチンゲールの検査を受ける立香をぼんやり眺めていると、不意に揺らぎそうになる。
そんな唯斗に、アーサーはそっと頭を撫でて落ち着かせてくれた。


「……アーサー………」

「うん」

「…だめかも、しれない」

「…そうか。では、検査は落ち着いてからに……」


やはりだめだ、と直感した唯斗の言葉を聞いて、アーサーはすぐに立ち上がって検査の時間を置くようナイチンゲールに声をかけようとした。

すると、そのときだった。


突然医務室の扉がスライドして開いたかと思うと、騒がしくダ・ヴィンチが入ってきた。


「ちょっと失礼!唯斗君はいるかい?!」

「どうしたダ・ヴィンチ…」


何事かとダ・ヴィンチを見遣ると、その後ろの姿を見て、息が止まる。同じく、立香とマシュも、さらにアーサーまでも呆然としていた。


「君たちが帰還する直前に突然召喚されたんだ。しかも、セイレムへのレイシフト直前までの記憶の連続性がある!慌てて精密検査を3回やったんだが、異常なし、メディアにキルケーが扮していたようなこともなく、純然たるシャルル=アンリ・サンソンだ!」

「あの、ダ・ヴィンチ女史、これはいったい…」


ダ・ヴィンチに連れられて医務室に入ってきたのは、サンソンだった。困惑している様子だが、唯斗の姿を見つけると、ふわりといつも通りに微笑む。


「おやマスター、レイシフト帰りですか?確か北米で警報が鳴ったと…」

「見ての通り、レイシフト直前までの記憶で止まっている。セイレムのことは一切覚えていないようだ。でも異常はない、安心してくれたまえ」

「……、ほんとに、サンソンなのか」


唯斗の声は震えていた。さすがのダ・ヴィンチも一瞬黙ると、困ったように微笑んだ。


「正真正銘、君のサーヴァントであるサンソンだよ。本当はレイシフト後の検査が必要だが…このままだと、レイシフトとは関係ないものが数値に影響しそうだ。少し時間をおくように」


そう指示すると、ダ・ヴィンチは医務室を出て行った。
残されたメンバーの動きは止まったが、まずナイチンゲールが「おかえりなさいサンソン。ではマスター、続きを」といつも通り医療以外への関心を払わずに平然と行動を開始したため、アーサーも時が進み出したかのように動いた。


「サンソン殿、セイレムでの出来事は、簡単にでも誰かから聞いているかい?」

「いえ、何も…あの、これはいったい……」

「ッ、こんの、馬鹿!!!」

「マスター!?」


堪らず、唯斗はそう叫ぶとサンソンのところへとズンズン進んだ。心配そうにマシュと立香がこちらを見ている。アーサーも気遣わしげだ。
動揺するサンソンに、言いたいことはたくさんあったが、何も出てこない。

代わりに唯斗は、思い切りサンソンに抱きついた。コートの下のシャツ越しに背中に手を回して、深く抱きつく。サンソンはひどく驚いているが、ほぼ反射で唯斗を抱き締め返した。


「アホ!馬鹿!頑固者!石頭!陰気!!」

「ええ…マスター、その、どうされたのです…?」

「甘んじて受けなよ〜、サンソン」


困惑しっぱなしのサンソンに、立香はほっとしたようにしつつも楽しそうに声をかけた。それにはマシュも息をつく。


「本当に…本当に良かったです、サンソンさん。でも、唯斗さんが負った心の傷は深くひどいものです。その責任はきちんと果たしていただかないと、私としても相応の制裁を提案しなければなりません」

「マシュにそこまで言われるとは…僕は何をしてしまったんだ…?」


すると、アーサーが唯斗の背中を押して、サンソンの肩を叩いた。


「マスターを守る義務を途中で放棄した挙げ句、マスターにひどい悲しみを負わせたんだよ。セイレムで一通り憂さ晴らしはしたけれど、私としてはサンソン殿に対してうっかり剣を抜いてしまいそうなのは変わらないからね、席を外していよう」

「な…っ、」

「その代わり、責任を取ってマスターを泣き止ませ、たっぷりと甘やかすように。いいね」

「…よく分かりませんが、重大なことがあったんですね。マスター、まずはお話できる範囲でお話を聞かせてください。いえ、できなくとも結構ですが…まずは場所を移動しましょうか」


サンソンはよく分からないながらも、これは常と異なる事態が起きていると理解したようで、唯斗をアーサーに言われた通り世話するところから始めることにしたようだ。
それならば、と唯斗はぶすっとした声を出す。


「…じゃあ、連れてけ」

「…、お部屋まで、ですか?」

「そう」

「…では、失礼します。正直役得なのですが…贖罪になっているのでしょうか?」

「あっ、サンソン、そういうワード地雷だから!」

「うぐっ…もっと早くお聞きしたかったです…」


唯斗を丁寧に姫抱きして抱え上げたサンソンの言葉を聞いて立香が忠告を発したときには、すでに唯斗の肘打ちがサンソンの腹に入っていた。


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