旅の終わり−2
目元を拭いきってから、唯斗は食堂を後にしようとしたが、そこに声がかけられた。様子を見てタイミングを計ってくれていたらしい。
「唯斗さん」
「っ、マリー、ジャンヌ、ジークフリートも」
三人で現れたのは、マリーとジャンヌ・ダルク、そしてジークフリートだった。立香たちとの挨拶を前に来てくれたのだろう。
「悪い、俺から行こうと思ってたのに」
「いいのよ、気にしないで?」
「気にするに決まってる、フランス最大の英霊二人なんだから」
唯斗がそう言うと、マリーとジャンヌは顔を見合わせてから、かろやかに微笑む。
「ふふ、唯斗さんは変わりませんね」
「ええ、本当。といっても、私は記録を閲覧しただけだけど…2年も経てば、記憶と同じね」
第一特異点の記憶を持つジャンヌに対して、マリーとジークフリートは記録をカルデアで確認しただけだ。とはいえ、そのあとすぐにカルデアに来てくれたため、もう立派な記憶だ。
ジークフリートはマリーたちに薄く笑ったあと、唯斗にも優しく笑いかける。
「確かに君の本質的な部分は変わっていない。だが、君は人として、とても大きく成長した」
「そうですね、その過程を見てきたお二人と違って、私は時間神殿で、そしてここに召喚されて、はっきりとその違いを感じました」
ジャンヌは目を閉じて振り返るように言った。確かに、ジャンヌは時間神殿で唯斗たちを鼓舞してくれたときが、第一特異点のあと初めての再会となった。
三人揃って唯斗が成長した、と言ってくれたが、それは他ならぬこの三人こそがきっかけだ。
「…俺が最初に、英雄っていう存在がどういうものなのか知ったのは、フランスでジークフリートの強さを見たときだった。単純な強さじゃなくて、俺たちを守ろうと、ひどい怪我と呪いを受けてもなお邪竜に立ち向かってくれた、その背中だ」
「む…そう言われると気恥ずかしいな……」
「あら、賛辞の言葉は聞き飽きているのではなくて?」
「彼からの言葉だからこそだと、君もよく知っているだろう」
「ふふ、もちろんよ」
少し照れているジークフリートをからかうマリーに、ジークフリートも言い返すが、マリーは鈴が鳴るような華やかな笑みを浮かべるだけだ。いろいろな意味で、マリーに勝てたサーヴァントをこれまで見たことがない。
「…そんで、俺が初めて、世界を守ってやってもいいと思えたのは、嫌いだったはずのフランスを、マリーとジャンヌが繋いでくれた国なら好きになれると、次の時代に継承するために戦ってもいいと感じたのがきっかけだった」
唯斗の言葉を、フランスで、二人は英霊としてこれ以上ない言葉だと言ってくれた。唯斗がグランドオーダーへの考え方を大きく変えるきっかけとなったのが、あのフランスでの戦いだったのだ。
ジャンヌは、まさに聖女然りとした表情で、胸元に手を当てる。
「…死者が生者に影響をもたらすことが、必ずしも正しいとは限らないのかもしれません。けれど、きっとあなたには、私たち英霊だからこそ、為し得たことがあったのでしょうね」
「それを受容できたのは、彼の元来の性質が、誠実で優しかったからだ」
「そうね、私たちはあくまで、種に水を蒔いただけ。力強く芽吹いたのは、あなたの力よ、唯斗さん」
英霊たちのおかげだ、という唯斗の言葉に対して、三人はそんなことを言ってくれた。
エミヤも言っていた通り、唯斗にはもともとそうなれる下地があったのだということだ。